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Season8 Act13 黒い煉獄

黒い煉獄

ストーリー

イラスト

シノプシス

全てが始まったが、今は止まってしまったここで…あの方の息遣いを今も感じる。

永い間、多くの物事を見てきた敵の信念は見る影もなく底をつき
ただ偽りの盃の底を濡らすのみ

永い間、ただ一つのものだけを見つめてきた我らの信念は溢れ出し
ついに真実の盃を満たす最後の一滴を残すのみ

敵の散り去った信念はこの地で彼のお方の痕跡を消すには足らず
やがて我らに絶望するだろう

我らの微かだった痕跡はついに隠すことのできない大きな傷跡となって現れ
やがて敵に破滅をもたらすだろう

いよいよ直面する遥かな恐怖の前で混沌を思う時
我らの神はお前たちの目前に再び降臨する。

フフフ…。
とうとうあの方と再会する日が近付いてきた。

今落ちようとしているこの小さな一滴が黒き大地に染み込んだ時
全てが止まったこの場所で…また全てが始まるだろう。

人物

殉血者ティモール

闇が宿ったロスチェスト外郭。

誰もいない空間が突然揺らめくと、誰かの気配が微かに感じられた。
周辺と同化したように目立たなかった、黒いローブの人物。
首を振ってフードの下に垂れた長い髪を整えて
闇の中で低く笑う。

"やっと…"
あらゆる感情の渦に囚われているように見えた。
喜びと悲しみ、苦しみと孤独、怒りとこれから起こるべき復讐への期待。

プリーストたちの追跡を避けて計画のために準備したことを思い浮かべた。
高貴な殉血の血にふさわしい者たちを求めて大陸を横切り、
命を懸けて盟血の血を体内から湧き立たせる者たちを取り込んだ、
退屈な忍耐と延々と続く準備の時間。

そして迫りくる混沌の時。
ローブの下で強く握りしめたその手が震えていた。
もう正体を隠さず光の下を闊歩する日は遠くないのだ。

"出でよ、混沌の主よ。"
瞬時に感情を収めてフードを深くかぶったその顔に、冷たい殺意が咲いた。
現れた時と同じように、最初から誰もいなかったように姿が消える。
冷たい風が、荒涼とした大地を撫でながら通り過ぎて行った。

絶望のティアマット

絶望よ
一筋の光も入らない繭の闇の中、彼は自分の角が折れた場面をその永い時間の中で幾度も思い返した。
その時の敗北感と恥辱、侮蔑、羞恥に満ちた感情は、彼が自らの力を隠し、
やがて巡ってくる復讐の日を待ちながら繭の中で耐える原動力となった。

私の微々たる力を
黒い聖戦で作られた数多くの絶望たち。
繭が作り出した揺りかごは、混沌のように暖かく彼の体を包み込み
永劫の時間、復讐心が鈍らないよう彼を支えた。

ささやかながらお貸しいたしましょう。
ついに訪れたその日。
絶え絶えの追従者の声を聞きながら、彼は自分を包んでいた繭を割った。
見慣れた敵の姿と、記憶の中の大地が彼を迎える。

"お前たちは…なるほど。クハハハハッ"

自分の前を塞いでいる仇の子孫を見つめながら
彼はまた別の絶望を作り出すために、力を込めて槍を握りなおした。

破滅のベリアス

不気味な光と共に辺りのあらゆる物が消えたのを感じた。
そしてそれが私の最後の感覚となった。
混沌すら感じられぬ闇は、怒りに満ちた私の声を飲み込み
全てを破滅に導く私の刃すら意味を持たなかった。

ここには時間の経過も感じない、ただ黒い空間が広がるのみ。
目を開けているのか閉じているのかも分からないまま時間は流れ、
ついには自分が生きているのかすら疑問に思うようになった頃、何事もなかったように目を開いた。

こらえていた息を吐き出すように深く息を吐き、地面を握りしめた。
指先に乾いた土を感じ、その感覚は指から全身へと広がっていった。
とぎれとぎれの不完全な古い記憶を、本能的につなぎ合わせる。
あの果てしなかった時間が、まるで一瞬のことのようだな。

彼女の言葉通り本当に長い間待ちわびたが、結局彼女の計画通りに流れているのか?
長い間縮めていた体を伸ばしながら、深く息を吸った。
硬くなった体を動かすと、過去の空虚と渇望は跡形もなく消え去り、荒涼とした木だけが首を垂れる。

そして黒い服を着た者たちが近寄ってきた。彼らはおそらく彼女の…だが、おかしいな。
"破滅のベリアスよ…ついに戻られたのですね。"
彼らの一人が首を垂れながら私の剣を捧げるように差し出す。
私はすぐにその剣を握ったが、目は他のものを探していた。

"私を待っているべき殉血者はどこだ?"
私の言葉に、彼らの瞳が揺らいだ。

殉血者デスフェロ

燃えるような熱い痛みが肌と肉を食いつくそうとしていた。
聖水という名の油が、浄火という名の炎が全身を何百回も覆う。
ただボロ布のようにぶら下がっているだけの体は、思うように動くわけがない。
笑いが出る。
幻のように散らばる啓示に縋って炎を振り回す狂信徒たちからの、憐憫すら感じる。
お前たちのそのくすぐるような炎で、私に絶望を与えられると思ったのか。
助けてくれと足掻き、いっそ殺してくれと哀願することを期待したのか。
あのお方が私に下さった「絶望」は…あの方が見つめる「混沌」はこんなものよりも遥かに濃く深いものだった。

刹那の瞬間、目の前の陽炎のように歪んだ空間から彼女が現れた。
そしてほぼ同時に扉を守っていた看守たちが糸の切れた人形のように倒れる。
ああ…ついに……

扉が壊れ、コツコツと響く靴の音が目の前で止まった。
体を拘束していた鎖が、ガチャリと音を立てて切れる。
ぶら下げられていた体は力なく崩れ落ちて膝をついた。

"彼らに再び絶望を抱かせる時間ですよ、デスフェロ。"

ああ…混沌よ、絶望よ!この日だけを待っていました!
愚かな狂信徒どもよ。
お前たちに、真の絶望というものを見せてやろう。

血を飲んだ半夜

握りしめた拳から、粉となった岩がこぼれ落ちた。
足を踏み鳴らすと大地が割れて悲鳴が上がった。
これが破滅の力。

しかし…これではまだ足りない。
この程度の力では、何も成し遂げることはできないだろう。
私が成さんとしているのは武の成就などでも、
煩悩と節制を投げ捨てて修羅の道へ足を踏み入れることでもない。

人間の救済、極楽浄土!
それが私の望むただ一つの使命であり、存在の理由。
森を見られぬ愚かな衆生たちの非難はいくらでも聞いてやろう。

混沌が再びこの地にもたらされた時、ついに私の使命は完成するのだ。
愚かな衆生たちをこの手で救わん。

垂れこめる闇、ゼト

"ハァ…ハァ…"
追われる者の本能だったのだろうか。
駄目だと知りながら、兵士は何度も後ろを振り返った。

闇に飲み込まれた月は微かな光だけをどうにか維持しており
その微かな光は、兵士の後ろを離れず追いながら歯をむき出している偽装者たちの姿を時折映し出した。
共に逃げていたはずの仲間たちの足音は、もう聞こえない。

今兵士の頭の中を満たしているのは、皇子の安否や生きたいという思いではなかった。
次第にスピードを失っていく自分の背中に十分追いつけるにも関わらず、
偽装者たちが自分をわざと捕まえないでいるのではないかという不吉な予感。

はるか遠くに、先に脱出した先発隊の姿が見えた時、兵士はその理由を悟った気がした。
自分の後ろを追っていた偽装者たちの騒音が、いつの間にか聞こえない。

彼は固まって思うように動かない首を無理やり回して後ろを見た。
視野に入ってきたのは、一筋の光もない巨大な闇。
力を振り絞って逃げていた彼を嘲笑するかのように見下ろしながら、垂れこめる闇だ。

闇は想像もつかない方法で形が変わった拳を振り上げ、
兵士に分かれの挨拶をするように、彼の兜に打ち下ろした。


道の上のヴェンタ

神の炎と呼ばれる異端審問所の聖火の中で
家族は灰となり、骨すら残さず風に散った

生きる意味を失った男は故郷を離れ、とめどなく流れる涙を拭うことも忘れて道を彷徨った。
何日食べなくても飢えを感じず、飲まなくても渇きを感じない。
ボロボロになった足が前に出なくなり、ついにその体が崩れ落ちた時、彼の目にフードを目深にかぶった何者かが近付いてきた。

食道をつたって流れ落ちたのは、黒くて熱い血。
盟血者の気運は一番辛い記憶を暴き出し、彼の体を灰すら残さないほどに燃やし尽くした。
散り散りになった肉体を脱ぎ捨てた男は、影の中で動きながら誰にも自分の顔を見られないように姿を隠す。

時間が経つと、黒い教団内である噂が広がった。
光すらその姿を映し出すことができず、残虐非道なプリーストたちが炎を起こす場所ならば
どこにでも現れるという、道の上の影。ヴェンタ(Venta)。

コーリング・ジェイド

チェストタウンの外郭、事実上長い間捨てられていたと言える奥地。
そこは本来、うら寂しさを感じさせるチェストタウンよりもさらに暗くて重い空気に沈んでいた。
プリースト教団が知ればすぐに押し寄せるであろう黒い教団の隠された本拠地の一つは、これまでどうして人目に付かなかったのかを説明するように
汚染され見捨てられた地をうまく活用してその場に存在していた。

そしてそこには赤黒いフードを深くかぶった盟血者、コーリング・ジェイドが拳を顎に当てて苦悩するような表情で座っていた。
目の前に置かれた彼女を悩ませる二つの駒の価値を測るように、瞳がキョロキョロと動いた。
そして顎に当てていた手が、一方の駒に向かった。

"地獄の果てまでも神を追う者…"

彼女は黒い駒に指先で軽く押し倒した。
彼女の指はそのまますぐ横に倒れていたもう一方の駒へと向かう。
その駒を摘まみ上げたコーリング・ジェイドは、悩むように呟いた。

"欲望の果てに黒い聖痕を手に入れた者…"

その瞬間…啓示の夜、捨てられた安息地で受けた屈辱が頭を満たした。
予想外の出来事だったが、あの方は彼を認めてくれた。
それはあの方の計画には何の支障もないという意味だったので、もう気にする価値もないことだった。

それなのに、彼女がこうして悩んでいる理由は一つ。
長い間、黒い教団の祭司長を務めたことで得た勘が、ざわざわと危険を感じ取っていたからだ。

"私はお前を信じないわ、半夜。"

バン-
赤黒い駒が、やや感情のこもった音と共に真っすぐ置き直された。

緻密な計画の外で動く者、恐れ多くも神の下した啓示に背く者…
そんな者を信じることはできない。だが、それでも彼を切り捨てることもできない。
愚かな自分には理解のしようがない神の大いなる意志が彼を包容するだろうから。

"半夜。お前の欲望が何であれ、結局あのお方のご意志の内…"

つまり、彼女が心配すべきことなど一つもないのだ。

オニキス・ブラック

ああ…もう少しだけあなたの声を聞かせてください。

絶望に満ちたあなたの悲痛、
破滅に追い込まれたあなたの悲劇、
恐怖に震えるあなたの悲鳴
その全てが混沌のハーモニーとなるのですから。

歌を上手く歌えなくても構いません。
ただ私の指揮に身を任せて…
そして、心の向かうまま声を出せばいいのです。

そう!そうやって!
もっと大きく泣き叫んで!
混沌に最高の賛歌をお聞かせするために!