アラド戦記 > イベント

Season8 Act6 無形のシロコ

無形のシロコ

ストーリー

数百の顔を持つが、見えない者-無形のシロコ(シロコの幻影)

お前は生きようとする。
長く続いた渇きで舌はカラカラに乾き、両目が落ちくぼんでいる。怒りに駆られ足を踏み鳴らしても、枯れ果てた枝のように力が無い。
お前はいっそ、「魔界」を描く。満足できない量のエネルギーを飲み込む時、お前の背中から聞こえた鉄の音を思う。
誰かが誤ってこぼした静寂が割れた地面の上で海霧となって漂うと、静かに身動きする気配にも震えていた者たちを思う。
感興も無く通り過ぎた者たちの顔を思う。濡れた落ち葉のように張り付いた「使徒」という名を思う。そして、その顔を思い浮かべる。
お前は怒りを抑えられない。奇声を上げる。
舌の根に、生臭い鉄の味がにじむ。

香りに反応した虫たちが動き出す。荒れていたお前の息がゆっくりと静まっていく。
お前は生きようとする。
何度引き裂いてもしぶとく現れる愚かな虫けらどもにやられるわけにはいかない。今日こそ、奴らの根を絶やしてやると、お前は考える。
耳を澄ます。洞窟の中を彷徨う足音がいくつも聞こえる。お前は蛇のようにとぐろを巻いて座り込む。いや、散っていく。煙となって、
洞窟の天井を撫でる。 一筋の光さえ差さない冷たい空間。お前は爪で石壁をがりがりと削る。耐えきれなかった爪が割れて肉に刺さる。
深く埋まる。 お前は今日、お前が死ぬことを知っている。

それでもお前は生きようとする。精神を宿す器を探していつまでも彷徨う。永く、永く彷徨いながら
お前は考える。いつか全てを取り戻す。やられたことはやり返す。
無となったからには形になろう。全ての時間に存在しよう。
ふと自分の置かれた状況に絶望した時は、お前はまたあの顔を思い浮かべる。
「使徒は使徒を殺せない」その言葉がお前には夢のようだ。
いっそ殺してくれと泣きながらすがる顔を想像し、想像し、想像しながら耐えた
お前は、ついに七を見る。

復活!
お前はようやく成し遂げるだろう。如何なる難関も、お前にとっては余興に過ぎない。
巨大な嵐で立ち上がる。溢れ出す力を放ち、爆発し、突き上げ、振り回しながら
目覚めるのだ!怯えた者どもの目にお前の威容を植え付け
押し寄せるのだ!この世界の脊椎を駆け上がり、思い描いたオアシスにたどり着いたら
最後の一滴まで残らず飲み干すのだ!
海の底や空にまでお前の根を下ろせ!

一時、お前は生きようとした。だが、もっと望むものができた。
花の香りを嗅ぎつけた虫どもが茎を這い上がってお前をくすぐる。
そのせいでお前は、お前すら知らない瞬間にお前は
悲しく微笑む。

無我のシロコ-レベーチェ

記憶の腕を枕に、静かに寝そべる。
すぐに熱いエネルギーが足指の間を満たしていく。
ぐっと、夢の中に足を伸ばすと。それはすぐに根となり
星が抱く力を思う存分飲み干す。蠢く血管。呼び起こされる感覚。
喉を焼く渇きが収まれば、落ち着くだろう。
両腕を地面に深く突き刺し、枝を下ろす。もっと遠くへ、中へ、奥へ……。
そして届くだろう。霧のように朧げな、口の中のように温かい星の吐息。星の芽。
その中に身を委ねれば、そう、私すら我を忘れて溺れていた場所で
私はついに「満開」になる!

冷たい風が背や腰を斬っていく。
その風でうたた寝から覚める。
身に触れる地面が凍り付いたように冷たい。夢は消え、記憶は散らばった。
長いため息が、過去のかけらを混ぜてしまう。
膝を立てて顔をうずめる。遥か遠くなっていく意識の向こう、私がいた場所。
戻れないとしても、夢を見る。
変異の世界、ジュアラバドンを。

無念のシロコ-ラステー

散らばった思念の中でお前たちを見た。
死に、殺し、望み、奪い、欲し、また欲し……
生きることへの執着が、力への渇望が塵のようだった私の思念を膨らませ
私の子供たちと呼ぶにはあまりにも醜く歪むのを見た。

純真なお前たちは、ただ計画のための生贄に過ぎないと、一瞬そう考えたことがある。
だが、生きている者たちを斬り、突き、殺戮して手に入れた力で、情けを施すように世界を救うと言うお前たちを、
英雄ごっこに酔いしれて悪行を働きながらも、私を指して不義だと叫ぶお前たちを見ていると
実に多くの事が簡単になった。
目の前に差し迫った状況への対応に追われ、ボロボロになっていくことに気付いていなかったのだろう。
助かった者だけが示すことのできる感謝に、少なからず浮かれて喜んだだろう。
怖くは無かっただろう。もう何人もの使徒を戦った身だ。
内心期待もしただろう。次を、そしてその次を。
だから、正しく言わなければ。
お前たちは正義ではない。殺意だ。
この世界とは似合わない、私と同じ怪物。

お前たちに恨みはない。少し可笑しくはあるが、それだけだ。
だから、誤解はするな。私がお前たちを殺すのはただ……
それができるからだ。

無言のシロコ–ギリー

七つの器から使徒が現れ、全てが始まった。
使徒が身体を作った七つの存在を見ていると、これまでのこと生々しく思い浮かび、使徒は彼らの魂に語った。
お前たちの犠牲への褒美を与えるから、一人ずつ生前犯した罪を語れ。それを私が飲み込んで力としよう。
死に際で生に留まった者がこれを聞いて自分の罪を語る。
今更気付いたが、必ず予言を破ろうとしたのに、自分の愚かさゆえに計画の一部となったと言うと
使徒は手を差し伸べ、お前が望むならば知恵を持てと言い、彼は頭だけ残った。
死の畝間を満たした者がこれを見て、私は何も守れなかった
遠い過去に志を共にした仲間たちが死にゆき、一人生き残った、娘のように愛した子もこの手で殺したと語ると
使徒は頷きながらお前が望むならば守る力をやろうと言い、彼の額から角が生えた。
地面を掘り返して死を手にした者が慌てるように出て来て、私は親友の手で殺され、その目に偽りを込めて血を流させ、
その両手も悲しみで濡らさせたと言うと、
使徒は心を痛め、お前が望むならば自由を失うだろうと言い、彼の腹から家が出た。
罪を告白する声はその後も続き、使徒は満足そうに彼らの業を飲み込んだが、最後の瞬間まで死が刻んだ者だけは何も語らなかった。
使徒が不快に思ってお前はなぜ口を開かないのか、お前は本当に罪を犯していないのかと尋ねると
死が刻んだ者は、私に罪があるならばお前たち使徒にあると答えた。
使徒がそれを聞いて怖くないのかと尋ねると、死が刻んだ者は我が身体は殺せど魂は殺せぬ者を恐れる必要はないと答えた。
ついに使徒は立ち上がり、告白すべきことがない者は永遠に告白することは許さぬと皆の前で命じた。
光を見ることもできず、闇に生きろ。隠れて無言の嘆きの中で疲れ果て死ぬがいい。
使徒が群れを散らして城に戻った。そこで残りの仕事を行うことになるだろう。

ゲート

「あそこにあんな門がありましたか?」
ずっと天城の入り口を統制してきた帝国の軍人たちは、今更閉ざされた「門」の前で戸惑っていた。
燃え上がる紫色の炎、その炎におぼろげに浮かび上がる「門」の輪郭は
遥か昔に天城の主だったというある使徒の威厳を存分に放っていた。
恐れる必要は無い。
記録の中の使徒は死に、門の向こうで身を縮めているもう一人の死ともまた帝国の刃で命を落とすことになるのだから。
だが……。
「とりあえず、皇女様に報告しよう。」
帝国に対する忠誠心よりも、死にたくないという本能に従った決定だった。
だが、門に背を向けたその瞬間、慌てて一歩を踏み出した瞬間、
地面を揺るがす震動と共に「門」が目を覚ましてしまった。

「この天城に侵入する恐れしらずは誰だ!」

百獣の王ウンジョ

天城に登る強者たちのエネルギーを感じる。
絶望の塔で感じたものとは全く異なる戦慄が脊髄を伝って拡がっていく。
使徒シロコの力を受け入れてから、私は変わった。
鋭く尖らせた間隔。きつく引っ張られた両脚の筋。
跳ねる心臓。苦しいほどに上がる息。全身を駆け巡る血液。
そして本能。

もう私が望むのは修練の場ではない。狩る餌だ。
どんどん欲するエネルギーが増える玄武が、低い声で飢えを吐き出す度に、
その視線が私の首筋に牙のように食い込む度に
私は思い出す。
力!ただ百獣を引き裂き踏みにじる力を持つ者だけが、彼らの「王」として君臨できるということを!
来るがいい。お前たちの死体を玄武の餌にして、蘇った使徒を守るのだ!
猛獣の咆哮と入り混じる悲鳴の中で、予言は必ず外れるだろう!

「ハハハ!だから、もう少しだけ待っていろ。いいものを見せてやるから。」

彷徨うグルミ

私は今、天城に来ています。
散らばった使徒のエネルギーを掻き集める魔法陣を作るためです。
仕事は簡単ではありません。使徒を捕まえるために血眼になっている連合軍にも手こずっていますが、
本当に私を困らせている奴は別にいるんですよ。

そいつを初めて見たのは、天城4階の一番奥の部屋でした。
その部屋の魔法陣がしょっちゅうダメになる理由を調べるために、柱の後ろに隠れて様子を見ていたら……。
しばらく待っていたら、犯人が現れました。いえ、雲が現れたんです!
ふわふわと浮かぶ紫のエネルギーの塊を初めて見た人は、誰もが雲だと思うでしょう。
使徒から剥がれ落ちた奴のようでしたが、話を聞こうともせずに魔法陣に頭を打ち付けるので
そいうとどうにかすることが、私の仕事になってしまいました。
特に何かを考えているようでもないのに……どうして天城の外に出ようとするのでしょうか?
まあ、どのみち使徒が力を取り戻せば奴も消えるはずなので、その時までの辛抱ですが。
ああ、そういえば、そこはどうですか?ソルドロス様は魔界に無事到着しましたか?

―絶望から降りたグリムシーカーの手紙より

爆発させるトゥラ、吸収するタナ

タナ、見て。誰か来たよ。
誰だろう?初めて見るけど。もしも人間だったら……。
ま、いっか!面白そうだし。一緒に遊ぼう!
でも……きっと嫌がるよ。
誰が?
分かってるくせに。
ちょっとだけなら大丈夫だよ。
あの時みたいに粉々になったらどうする?
そうならないように、あいつらを捕まえるんだよ。
花に近寄れないように?
花がもう寂しくないように。
トゥラ、あいつらを信じるわけじゃないよね?
変なことをしたら爆発させちゃうから心配しないでよ。
それなら、いつでも手伝うよ。
良いね、じゃあ決まりだよ。トラモンタナ、前~進!
ちょっと待って。気を付けないと。一緒に行こう!

魔弾6 レイナ

あの方が向かう道が真実であり、真実。
あの方は絶望の中で唯一光を放つ秩序であり、皆が望む念願のようだ。
その念願が答に近付くことができるのならば、喜んであの方の弾丸となり、華々しく散ろう。
決意は信念となり、迷わず信念の中に身を投げよう。
時折、深淵の中で甘い蛇の囁きが内面を乱すが、
構わない。それで一歩の時間を稼ぐことができるならば。
喜んで蛇の舌先に弄ばれ、猛獣の爪となってあの方の足取りを守ってみせる。

深淵を込めた弾丸が闇を裂いて彷徨う者たちの心臓を貫く。
罪悪感は邪魔な足枷になるのみ。ただ彼の求める真理だけを追い
引き金を引くことに、一片の迷いもあってはならない。
相手を見つけて粉砕する私の弾丸はあの方の刃であり、世界を切り裂く喊声になるだろう。

どうか、この引き金がソルドロス様の道を照らす照明弾にならんことを……

残毀のロドス

黄金の肉体を奪った力は、歩くことのできる足を私に授けた。
自由の意志を拘束した力は、振るう武器を私に授けた。
天の城を占拠した力は、動くことのできる魔力を私に授けた。

だが、真に私を目覚めさせた「力」、その力は赤かった私の心臓にある。
怒り、悲しみ、恨み、憎しみ。
私を無力にしたものたちが、硬いしこりとなって隙間を埋める。
城の力が消えて、飢えを満たせなかった私は抜け殻となって力を失ったが
今、熱を帯びた感情がその時を迎え、壮大な鎧となって

破壊する。
城の侵入者よ。
私を愚弄した日々を後悔させてやろう。

魅惑のハニエール

ようこそ。あなたを待っていたわ。
私を見てちょうだい。会いたかったのよ。
幻の境界を越えた時から鼻先をくすぐっていた甘い香り、
その主が誰なのか、ずっと知りたかったから。
正直になって。知りたいことは本当にそれだけなの?
したいことは本当にそれだけなの?

私の正体が気になるなら、ここにきて一緒に踊りましょ。
虚空を乱して爆発する喚起を感じてみて。
もっとたくさん望んでもいいの。与えてあげるから。
あなたが探している彼女は、ここにはいないから。

心配しないで。夢じゃないのよ。
でも、望むならば、何もかも夢にしてあげる。
さあ、全てを忘れて私とここにいましょうよ。
永遠に日の昇らない、夢幻の夜明けに。

食い尽くすガスティ―

ああ!実に恐ろしく恐ろしいことです。
昨日、雲を捕まえにいったら、物凄い奴に会ったんですよ!
ああ、雲は前の手紙に書いた奴なんですけど、そいつに私が名前を付けたんです。
丸く固まったエネルギーの塊が雲みたいだから……
いえ、大事なのはそこじゃなくて。

こないだ見かけた奴は本当に悪辣なんですよ。
いつもは雲に似た姿に偽装していますが、エサが近寄るとすぐに本性を表すんです。
がばっと開いた口の間から伸びる奴の本体を見た時は、その圧倒的な恐怖に立ちすくみましたよ!
どうにか逃げ切れましたが、危うく丸ごと飲み込まれて奴のエネルギーになるところでした。
剥がれ落ちた気運からですら、あんな怪物が生まれるとは。今更ながら、使徒というのは本当にすごいですね。
だから、気を付けてください。魔界はそんな使徒たちがうじゃうじゃいた場所ですから。
ああ、そういえば、もう使徒の一人に会ったんですよね?
どの使徒ですか?

―絶望から降りたグリムシーカーの手紙より

シロコの悪夢

いや、そんなはずはない。
この私が完全に壊れた惑星の欠片で無残に散るわけがない。
口の中に刃を隠した娘にやられ、冷たい洞窟のどこかに打ち棄てられるはずがない。
下賤な人間どもにやられたはずがない。散ったわけがない。
ああ、くやしさというのは、針を飲み込むようなことなのだな!
この私が、過去の物語として膨らまされ、歪められるとは。
粉々に砕かれて形すら失い、空を漂う塵のように彷徨っていたとは。
そんなはずがない。この私に限って。
それは私ではない。
夢だ!
そう、間違いなく夢だ。
真夜中の招かれざる客。闇よりも濃い闇。瞼の中でだけ見える世界。絡まり合った瞬間の歪み、矛盾、偽り!

愚かにも私の中に足を踏み入れた者よ。ここへ来てその目で確認するといい。
頭の中でだけ描いていた本当の私の姿を。

夢の中のオールドハグ

シッ、坊や。
悪夢を腹ってここでお眠り。
怖がらないで。
私が見ているから。

ここは作られた無形の世界。
足掻くほどに絡みつく精巧な網。
坊や、ここに彼女がいるんだよ。
お前が恐怖に駆られて悲鳴を吐き、無意味な抵抗を繰り返して少しずつ、ほんの少しずつ
力が尽きるまで
ただ楽しく見守っているんだよ。

シッ。目を閉じて。お前の代わりに私が泣いてあげるから。
涙でお前に付きまとう悲劇の行列を断ってあげるから。
だから静かに。静かに。
耳を傾けてあの音を聞いてごらん。
お前のために用意した永遠の安息。
そう、「死」がすぐそこまで来ているんだ。

ロキシー

はっきりと覚えている。
この匂い。この気運。剣の錆に混ざった粘着く血液。その生臭さ。
やるな。まだ死んでいなかったとは。
その短い間にどこかで虫けらのように死んでいたなら、どこかに棄てられたお前の死体でも探そうと思っていた。
朽ち果てた肉を踏みにじり、骨まで粉々にしてお前の子孫に喰わせようと思っていた。
だが、自ら現れてくれるとは実に嬉しいぞ。
おかげで手間が省けたから、贈り物をやろう。
あの日、あの時。お前が置いて行った物がある。
お前ごときのために命まで差し出した娘を、お前は捨てた上に忘れた。
見よ!お前が卑しく生き永らえている間、死すらまともに迎えられず、苦しみ、苦しみ。苦しんできた娘の姿を!
なんと、哀れな。
どこなのかも知らぬ場所に魂を縛られ、果てしなく死を繰り返すのが、自分の名前も、顔すら記憶できない愚か者のせいだとは。

その手で終わらせる機会をやろう。私に向けて振るった生意気な刃で娘の心臓を貫くがいい。
出来ないならば、代わりにお前の物を差し出しても構わない。娘の手にお前の心臓を握らせたら、娘の魂を喜んで解放してやろう。
さあ、選べ。
私の慈悲が許す時間は長くない。

名前を忘れた門番

避けた深淵の霧の中、声を聞いた。
何重にも覆われた記憶の中に眠っていた彼を起こす声。

あの方が私をまた呼んでいるのか。
戦場の化身であり、業火の象徴である竜族の王、我が主君。
あの方が私を呼んでいる。
爆発しそうなほど押し寄せるこの広大なエネルギー、あの方に間違いない。
だが、どうして霧の中に隠されたように、あの方の姿がはっきりと浮かばないのだろうか。
なぜあの方の声が水の上に拡がるようにぼんやりと聞こえるのだろうか。

「守れ……」
そうだ、私は天城を守っていた……。
「守れ……」
私は任務を終えようとしている者。
全ての任務を終えてあの方の意志が地上と天に届いた時、
その時、ついにいるべき場所へ回帰するだろう。

天城を探す者よ。
私の肉体と霊魂が八つ裂きになって消滅するまでは、天城の上を仰ぎ見ようと思うな。

霧の中の暗殺者

間違いなく、私の四肢はシロコによって引き裂かれた。
悲鳴の洞窟で無駄に命を投げ捨てた自分を嘆き、虚しい運命を恨んだ。
だが、目覚めた私の前には世間に知られていた天国の姿でも、地獄の姿でもなかった。
いや、果てしなく広がる無の闇……ここは地獄なのか?

もしかしたら、私は今も悲鳴の洞窟をさまよっているのかもしれない。
あの時よりも、さらに濃くなった闇と沈黙を切り裂いて、絶え間なく剣を振るった。
休まず歩き、斬り続ければ、いつか果てに到達できるという漠然とした期待と共に。
彷徨い、彷徨い続けて果てしない闇を抜け出そうと足掻いた。
深海のような闇の中に味方はいない。どこまでもただ一人だ。
徐々に浸食してくる闇が視野を遮って、精神すら濁らせ散り散りにする。

もうどこまでの記憶が真実で、どこまでが虚像なのかすら区分できない。
攻撃してくるものは斬り、近寄って来るものも斬った。
冷たい深淵の中でできる、唯一の行為だった。

公義のネックス&慈悲のビータ

私は深淵の中で花開いた蠢く「生」だ。
私は深淵の中で枯れた絶望する「死」だ。

私は無形の空間で生と死を司る主管者であり、
この空間の支配者なのだから。
一つのようだが、共にはいられず、
一つから生まれたが、光と闇のように混ざることのできない存在。
無形の天に向かおうとする者は、生と死の天秤の前で選ぶだろう。

無形を彷徨う者たちよ、生の中で苦悩するがいい。
生こそが永遠なる深淵の中を彷徨う苦痛の刑罰なのだ。
恐れ多くも天に触れようとする者たちよ、死で断罪せよ。
死の刑罰こそが、お前たちを絶望させる最後の結末になるだろう。
お前たちの生と死の刑罰の前で、慢心を脱ぎ捨てて苦悩することになるだろう。