エピソード

いまアラド大陸で何が起きているのか…

エピソード20.第3章/預言者

あの日もいつもと変わらない日だった。
私は悠々と魔界の空を飛び回っていた。

暗い中でも新しく建った建物が微かに見えた。

これは全てあの建築家じじいの作品であった。
[ルーク]と言ったか。喋れない老人だった。

無我夢中に建物ばかりを建てているその姿を見ていると
生命体が老いぼれてしまうとどうなるのかがよく分かる。

ルークは建物を建てる以外、たまに魔界に電力を供給した。
まさか魔界に灯りが点くとは。もちろん、これには簡単ではない条件付きだが。

“メトロセンターの[アントン]が眠った時。”
“折りよくルークが電力を供給する余力がある時。”

高度を上げて都市を見下ろしていたあの時も偶然電力が供給された時だった。

<点々と点いた灯りが都市をより歪んだように見せるな。>

灯りは点いてすぐ消えた。戻ろうと顔を回した瞬間、何かを発見した。
いや、何かを発見した気がした。

<灯りが点いた時、あの建物…確かに自然の形ではなかった気がするが……気のせいか。>

先ほどまで灯りが点いていたからメトロセンターに行けばルークがいるかもしれない。
私は全速力で飛んで行った。

「おい、じじい。電力を再び供給してくれないか」

ルークを見つけると直ぐ様地上に降りて叫んだ。
だが、ルークは何も言わず自分の仕事を続けた。

何かを見た気がする。もう一度確認したい」

ルークは私の方に振り向こうともしなかった。私の声が聞こえないようだった。
私は巨大な体を飛ばしてどんとする音と共にルークの前を遮った。
どんとする音は巨大な壁と鉄塊にあちこち跳ねながら絶え間なく響いた。
メトロセンター全体が揺れた。私は発電機を指して言った。

「おい、邪魔をして悪いが、電力を……再び供給してくれないか?」

ルークに間こえるかどうかは気にしなかった。
私は言葉よりは圧倒感と丁寧さが伝わることを望んだ。

ルークはようやく手を休めてじっと私を見上げた。
実は“見上げた”というのは推測に過ぎなかった。
中が見えない眼鏡のせいで彼の目がどこを見ているのか分からなかった。
ただ私の方に顔を向けて立っているのが正確な表現だった。

彼はしばらく私を見つめては、やがてふさふさした口ひげで覆われた口でつぶやいた。

「じじい、私に言いたいことがあるのか?そういえば、あの建物は全部あんたが建てたものだな」

ルークは私に向けていた顔を再び元に戻し、しばらく考え込んではそのまま歩き出していくつかのスイッチを触った。そうすると大きなモーターが回る音がした。
モーターが回るのを確認した私は地面を蹴り飛ばして先ほどのあの絵が見えたところへ向かった。
そこの周辺の空をぐるぐる飛び回りながら再び電力が供給されるのを待った。

やがて、遠くからジジジ、どかんと大きな音が続いてメトロセンター周辺から次々と灯りが点き始めた。

ようやく確認することができた。先はどは鮮明に見えなかったある光景を。
目の前で一頭の龍がめらめらと燃え上がる火の中から首を出して鳴き叫んでいた。
建物の形と差し込んできた光を利用して粗悪に繋がった象徴的な
イメージだったがこの絵を描いた者の意図は明らかなものであった。

“バカル、よく見ておけ。これがお前の死である。”

突然背中がぞっとする気がした。実はこれが私を描いたとの証拠はなかった。
単なる一頭の龍の絵に過ぎなかったから。しかし、魔界で龍族は私一人しかいなかったし、
私の知っている限りでは私以外にルークが知っている龍はこの宇宙には存在しなかった。
私があの龍たちの王ではないか。

ところが、それだけではなかった。龍が燃え上がって死ぬあの絵の周辺にはあれ以外に三つの絵があったが、全てある生命体の死を描いたものだった。
一つは形がはっきりしていないある者が洞窟の中で形が散らばって消えていた。
もう一つは複数の足を持っている者が崩れ落ちる石に敷かれて死んでいた。
最後の一つは四つの足で歩く口の尖った者がどこかの違う空間に吸い込まれて肉体が切れ切れになっていた。

私は彼らが誰なのか知っていた。

<使徒たちの死……あのじじいが予言者にでもなったのか?いや、頭がおかしくなっただけだろう。>

しかし、頭がおかしくなったのは私のようだった。
巨大になったルークの顔数百個が空を覆って私に声をかけているようだったから。

「まあ、君があまりにも見たがってるから見せたが……果たして君は耐えられるのか……?」

もしかするとこれは予言ではなく警告かもしれない。
ヒルダが使徒を魔界に集めている理由はこれだと……。

ルークに戻って問い詰めてみようと思ったがやめた。
“喋れない”というのはあのじじいにとって巧みに言い逃れられる最適の条件のような気がした。

もしかすると彼は喋れないふりをしているだけなのかもしれない。
結局、自分で全てを調べてみるしかないのだ。

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