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Season9 Act3 機械革命:開戦

機械革命:開戦

ストーリー

シノプシス

"イリネ様。フローです。"
"…お入りください。"

程張りつめていた緊張の糸が一瞬緩み、イリネは想念から解放された。
目を向けた先には、顔に横長の傷を持つ男がすでに扉を開けて入っていた。
椅子に座ったまま自分を見据えるイリネの表情から緊張と圧迫を感じ取ったフローは、話を始めずにしばらく待った。

"フロー?"
"あ、はい。天界連合軍全員、出征準備が完了しました。そして…ジュヴェニルが外で待っています。"
"ジュヴェニルが…はい。ついに準備が出来たようですね。"

外には、ジュヴェニルやオスカー、そしてこの戦争の行方を覆すであろう者たちの姿が見えた。
「対バカル兵器」と呼ばれる、バカルを殺すためだけに設計された3種類の兵器が堂々とした姿でその威容を放っていた。
最後まで点検をしていたオスカーが、一歩遅れてイリネに気付き嬉しそうに声を上げた。

"おぉ、来たか?ハハハ!"
"兵器の調子はどうですか?"
"完璧だ。正確な位置へ転送することさえできれば…どんな竜だろうと木っ端微塵にしてやれるはずだ。"
"そうですか。本当にお疲れ様でした。"

オスカーの言葉に安堵したイリネが、隣に立っているジュヴェニルを見つめた。
ジュヴェニルは対バカル兵器を見つめて物思いにふけ、イリネの視線に気付かずにいた。

"ジュヴェニル。"
"......"

イリネが声をかけると、ジュヴェニルは黙ったまま顔を向けてイリネを見つめた。

"準備は全て整いましたか?"
"...ああ。俺たちにできることは全てやった。"
"そうですか。後は…バカルを襲う巨大な炎となるだけですね。"
"そうだな。"

イリネはジュヴェニルとオスカー、フロー、ローザ、そして天界の希望を眺める全ての天界連合軍の兵士達を順に見つめた。

"ローザ、作戦は?"
"準備できています。"

ローザの言葉を聞き、イリネは瞼を閉じた。今見つめた、最後になるかも知れない人々の姿を留めておくかのように。
今まで犠牲になった人々と、今一緒にいる人たち。そして今この瞬間もバカルの近くで命をかけているサラに思いを馳せて、再び瞼を開けた。
これで必要な全てのかけらが揃った。この戦争には絶対負けられない。

"それでは、開戦のための最後の作戦会議を始めます。"

モンスター

暴龍王バカル(CV:間宮康弘)

一体誰に彼の相手が務まるというのか!

天賦の喧嘩師で、
ほむらの中で死んでゆく定めの
特別な竜。

暴龍王を称えよ!
全ての竜の王。

そなたたちの頭の上で揺らめく
逆さまの都市の蜃気楼を目にしたことがあるか。

このように巨大な計画は
ほんの小さな不確定要素で崩れ落ちるのが世の定め。

暴龍王を称えよ!
全ての竜の王。

数千、数万の命を踏みにじり
この世を滅びから救う
「救世主」が来る。

暴龍王を称えよ!
竜の王を、暴君を!

龍王万歳。
暴龍王万歳。
静かにしろ。
暴龍王万歳。

狂竜ヒスマ(CV:今川柊稀)

グアアアアァ

バカルが創造した三頭の竜の中で最も強靭な肉体を持つ存在、恐竜ヒスマが鳴き叫ぶ。 ヒスマが降り立った屋根の瓦はすぐにでも崩れ落ちそうにぐらつき、 床と壁には鮮明な爪跡が刻まれていた。 力に耐えきれなくなった地層には鮮明な亀裂が入り、まるで苦しんでいるかのように少しずつ歪み始めた。

"奴さん、イイ喉してるな。そいつを持ち帰って、兵士達の起床ラッパに使えばちょうどよさそうだ。ハハ!"

オスカーは腕を組んだままヒスマの方を向いて笑っていた。 彼らが立っている場所はバカルの宮とはかなり離れていたが、その辺りを見下ろせるほどの高さのある峰だった。 肉眼では小さな点に見えるほど遠くても、地響きはまるですぐ隣から起きているかのように鮮明に聞こえた。 ジュヴェニルが覗いていた双眼鏡を下ろしながら答えた。

"おそらく奴の武器は、あのとんでもない身体を使った純粋な物理攻撃力なのでしょう。"

"ハハ!そうだ。それなりに肝の据わった竜族たちも、あの狂竜の滅尽堂(めっしんどう)には近寄らないとサラが言っていた。 そのうえ、性格も悪いそうでな。一度暴れだしたら周りの全てを破壊するまで止まらないらしい。"

"そんなに暴れたがる奴がどうしてバカルの宮の中で大人しくしているのか、理解しがたいですね。"

その時、さらに大きくなった狂竜の叫びが再び聞こえた。 ジュヴェニルの質問に答えようとしたオスカーは、眉をひそめて言葉を止めた。 装備で音を遮断しているにもかかわらず、鼓膜が破れそうな痛みが走った。 心の弱い人は、遠くでその音を聞いただけでも怖さで身体が固まってしまうという狂竜の喚きだった。

"それだけバカルへの忠誠心が強いということだろう。"

オスカーはじっとジュヴェニルの顔を見つめた。 峰に沈みゆく夕日のせいか、彼の表情が普段よりも悲壮に見えた。

"まだここにいるつもりか?"

"先に降りてください、爺さん。俺はもう少し奴の様子を見届けます。"

首を縦に振ったオスカーは、物思いにふけたジュヴェニルを後にしてゆっくりと峰を下り始めた。

死竜スピラッジ(CV:城岡祐介)

サアアア-サアア-

死の帳が落ちてくる。
死竜の息吹はあの世の入口に霧を撒き散らし、亡者を彷徨わせる。

引き裂かれた翼は死に立ち向かい足掻いた亡者達の沈痛。
爪にこびりついた旗は使命を叫ぶ亡者達の執念なり。
悔しくもあり、恨めしくもある。

死を覚悟し、自ら飛んで火に入る虫になったが
叫んでいた使命と怨恨は、たったの一息で虚しくつぶれてしまった。
堅い決意は崩れ、声を張り上げ謳ったのも虚しく…

自由のため死に飛び込み、
死という自由すら得られなかった可憐な戦友たちよ。
待っていてくれ、もう少しで君らがいるその場所に届くはず。

我々の悲痛さよ、どうか風に乗って一粒の種になり小枝に届け…
どうかその小枝で死も飲み込む業火の火種を起こせるように…
そう念じながら霧の中に横たわる。

息が切れる。
空は黒く…
飢えと渇きと恨みの中で、もう一人の亡者が彷徨い始める…

冷竜スカサ(CV:浅倉歩)

"…凄まじい寒さだ。"

バカルが創造した三頭の竜の中で最も強い冷気を持っており、
存在するだけで周りのすべてを凍らせてしまう力を持ったもの、スカサ。

務のためにスカサの圏域に入ったサラは、奥に入り切ったわけでもないのに感じられる冷ややかな冷気に顔をしかめた。
既に予想していた状況だったため、前もって準備していた防寒着や体温維持用の道具で身体を温めた彼女は、よどみない足取りで圏域の中に進んでいった。

"誰だ…!ああ、貴様か…"

圏域の中には一部の竜族達が見張りをしていた。
彼らは圏域に入ったのがサラだと気付き無言で道を開けたが、彼女への警戒を緩めず注意深く観察していた。
竜族側に立ち、天界連合軍を捉えることに尽力してきたにもかかわらず、大半の者たちが彼女のことを快く思わなかった。

それでもサラは、堂々と振る舞った。
彼女はまるで散歩をしているような軽い足取りで周辺を歩き回り、
そのおかげでそれほど疑われることもなく、黒雲と氷に覆われた楼閣を過ぎ、全てが凍り付いている池まで見回すことができた。

「…どちらも場所が良くない…」

しかし目的を達成できなかったサラは、荒々しい吹雪をくぐりさらに奥まで移動し、
やがて果てしなく広がっている氷の湖がある闘寒堂に到着した。

"…ここが、スカサが眠っている場所…"

周りは今まで通ってきた場所と同じ場所とは思えないほどに静まり返っていた。
湖の周辺は薄い霧に包まれ、
巨大な湖であるにもかかわらず、水の音は一切聞こえてこない。
ただ全てが凍り付き、白と青の光だけを放っていた。

しかし少し前とは比べ物にならないほどの冷気が全身を包み、冷え切った風が肌を切り刻むように吹いてきた。
サラは身体の感覚が段々と麻痺していくのを感じた。
危険を感じた彼女は、湖の所々に刺さっている鋭い氷のかけらを避けながら急いで周りを調査し始めた。
それから間もなくして、サラの目線がある場所に釘付けになった。

「…よりにもよってこの場所…簡単にはいかないのか…」

湖の真ん中で、ほんのりと赤い色が光った。
そしてその下、不透明な氷の間から巨大な胴体がうっすらと見えた。

雷のエクレア(CV:森樹里)

鬨の声と悲鳴、そして武器がぶつかり合う音で満ちている戦場のど真ん中。
突然、暗雲が押し寄せた。やがて、空が暗くなり始めると同時に大きな落雷が落ちた。
雷の余波を受けた激しい風と共に強い衝撃波が発生し、近くにいた大勢の者たちが大きな傷を負って倒れた。

"な…何が…"

突然の事態に、遠くにいた者達がたじたじと落雷が落ちたところを見ると、
既に濛々たる埃に包まれたその場所に、巨大な影の隣から飛び降りる小さな影の姿がいた。

"バカル様のお慈悲のおかげで生き延びているあんたたちが、身の程も知らずに反乱を起こすとはね。"

その影が軽く剣を振るうと、雷の音と共に近くにいた連合軍が雪崩れるように倒れ、

"これを機に全部根絶やしにしてやるわ。"

目の前を覆っていた埃が沈むと同時に、彼らの姿が露わになった。
そしてその姿を目にした連合軍は真っ青になった。

"これは一体…!ここにドラゴンナイトが現れるなんて聞いてないぞ…!"

"皆しっかりしろ!まずは攻撃だ!少しでもダメージを与えられるように何とか…!"

素早く状況を把握した連合軍兵士の一人が声を上げ、その場の全ての連合軍がいっせいに攻撃し始めた。
それを見たドラゴンナイトがイラついた表情で剣を一振りし、
同時に彼女の後ろにいた巨大な竜が赤黒い稲妻を落とし、突きかかる天界連合軍を攻撃した。

"うわぁぁぁぁっ!!"

攻め殺す勢いで落ちてくる稲妻の中で、天界連合軍は一人また一人とその数が減っていった。
連合軍は倒れながらも何とか彼女に一矢報いろうと頑張ったが、
悔しいことに稲妻のように動くドラゴンナイトには何一つ届かなかった。
そして、稲妻が止まった後にも戦場に立っていられた者はたった一人だけだった。

"なんで…なんで一発も当たらないんだ…"

あっという間に一人になってしまった連合軍の兵士は、腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。
ぼうっと周りを見渡す彼は完全にあっけにとられていた。
その姿を見て、赤黒い稲妻の宿った剣を手に彼に向かってゆっくりと近づいたドラゴンナイトが鼻で笑った。

"バカね。自分の身の程も知らずにバカル様に歯向かうからよ。"

時を同じくして雷鳴が轟き、最後まで生き残っていた連合軍の兵士も力なくその場に倒れた。
兵士の死体を軽蔑するような目で見ていたドラゴンナイトは、剣を肩にかけた。
その後、静まり返った周りを一度見回すと、身体を翻し他の場所に移動した。

"行くわよ、トネル。"

戦場の熱気で満ちていた場所は既にそこにはなかった。
うら寂しい風だけが、ひと時戦場だった場所を通り過ぎるだけだった。

妖竜ニンファ(CV:山田京奈)

緑豊かな森の中、ニンファが木の枝の間をそよそよと飛んでいた。
鼻歌を口ずさみながら、草葉を静々と踏む彼女はまるで妖精のようだった。
しかし、青々と生い茂っていた植物は、彼女の手と足が触れたとたんまるで養分を吸い取られたかのように萎れてしまうのだった。
その姿を見たニンファは、萎れてしまった花の前にしゃがみ込んで悲しそうな顔で呟いた。

"あら、お腹が空いているのね?"

憐れむ視線で花びらを見つめていたニンファの羽根が突然ピリリと震えた。
何かを感じ取ったかのように面を上げたニンファは、いつしか口元に意地悪な笑みを浮かべていた。

"お客さんが来たみたいよ。"

花びらのような羽根をばたつかせたニンファは、たちまち浮かれた様子で宙をクルクルと舞った。
まるで子供のように鼻歌を口ずさみながら踊っていた彼女が、突然その場にピタリと立ち止まった。
そして萎れてしまった花びらの前にかがんだニンファは淡い笑みを浮かべた。

"ちょっとだけ待っていてね。君の養分になってくれるお客さんをここに招待するから。"

天真爛漫な笑みを浮かべたニンファが翼を羽ばたかせると、その場には薄紅色の花びらと花粉だけが宙を舞っていた。
ポツンと残った萎れた花の上、妖精の羽根のような花びら一枚がそっと舞い落ちた。

九尾のブロナ(CV:金景美)

"つまらないわ…アンタ達の魂はこの尻尾にちゃんと納めてあげる。"

ブロナはあっけなく倒れた天界人達の死体をじっと見下ろした。
苦しみながら死んでいった者達の表情は、滑稽で惨めだった。

"どうせ死ぬくせに、必ずかかってくるんだから…大人しく死ねばいいのに。"

ブロナの言葉が終わるや否や、亡者達の死体から魂が抜け出し始めた。
魂はもつれあいブロナの尻尾に吸収され、あっという間に尻尾の数が増えた。
そして、誰かが息を潜めたままその姿を見つめていた。

「ふぅ…。そんなことができるのも今日が最後だ。」

正体を隠した男は、決意のこもった目で弾丸を装填した。
彼はブロナの尻尾に向けて銃を構え、迷いなく引き金を引く。
そして轟音と共に煙たい煙が辺り一面に満ちた。

「キャアアアアア!アタシの尻尾…尻尾が…!!!」

ブロナは全身を覆う凄まじい熱気に息を荒らげながらも、たちまち辛そうに身体を起こした。

"まずは…身を…身を隠さない…と…"

やっとのことで増やした尻尾がまた一つになったのを見て頭に来たが、それは後で考えても良いことだった。
ブロナは片隅に移動してしゃがみこんだまま、立ち上がった煙が晴れていくまで静かに待った。
まもなくして、遠くから天界人らしき男の姿がうっすらと見えてきた。

「…人間風情が…直にアンタの魂も…この尻尾に納めてやるんだから、楽しみにしてなさい…」

ブロナは遠ざかる男の後姿を目に精一杯焼き付けた。
あの天界人とまた遭遇するかも知れないという予感、いや確信があった。

悪童スワン(CV:堀金蒼平)

共にこの世に生まれてきた竜人達は、いつの間にかカッコイイ爪と鱗を持つ立派な姿に成長していた。
しかし小さな竜人の爪は誰よりも脆く、薄い鱗は少しの寒さも防いでくれなかった。
天界のどこにも小さな竜人の居場所はなかった。誰も彼には手を差し伸べてくれなかった。
小さな竜人に許されたのは暴力と蔑視、そして冷たく放たれる言葉だけだった。

お前みたいな失敗作は、バカル様の計画には入っていなかったはずだと。

終わりの見えない殴打と逼迫、その日もそんな日だった。
もはや自分を受け入れてくれる群れを探すことさえ何の意味もない気がしていた。

"こんな奴がどうやって今まで生き残ったんだ?"

何の抵抗もできない自分が悔しかった。小さく弱い身体が一層恨めしく思えた。
本当に自分にはほんの小さな力も許されてないのかと、何度聞き返しても無駄だった。

"何度生まれ変わろうと、君の首は必ず僕が折ってやるんだ…"

言える事が精々これぐらいしかないことが悲しかった。
冷たい床に叩きこまれた小さな竜人は目を瞑った。このまま息が途絶えるとしても未練はなかった。
そして地獄のような記憶が小さな竜人の頭の中をかき乱した。爪に切られ、踏みにじられた瞬間が走馬灯のように流れ込んできた。
生の最後の瞬間に小さな竜人を一番惨めにさせたのは抵抗すらできなかった、いや抵抗すらしなかった自分に対する嫌悪感だった。
悔しさと怒りで床に爪を立てた。小さく脆い爪が折れるほどに恨みをぶちまけた。
息が途絶えそうになった瞬間、突然暖かな気運に身体が包み込まれた。そして痛みも消えていった。
やがて、自分を苦しめていた竜人達の悲鳴が小さな竜人の耳に届いた。

"クアッ…何だよこいつ…いきなりどこからこんな力が…"

小さな竜人が再び目覚めた時、たった今まで彼を踏みにじっていた竜人達は小さな竜人の巨大になった左腕に潰されたまま転がっていた。
その中には、みすぼらしい爪の上に新しく生えてきた爪と、3匹の竜ほど巨大になった腕と溢れんばかりの力を持った竜人、スワンが立っていた。
刹那の惨劇の後、唯一生き残った竜人が一変してしまった状況に驚き、真っ青な顔でスワンを見た。

"な…なんだお前は…力を隠していたのか?"

圧倒的な強さを見て逃げる意志さえ失った竜人にスワンが一瞬で飛びかかった。
鋭い爪を相手の首元に近づけたスワンが竜人の耳元に囁いた。

"君の首は僕が必ず折ってやると言ったよね?違うかな?もう死んでしまったアイツだったかな…?"
"まあ、どっちでもいいや。どうせ皆殺しにするんだから。"

スワンの左腕が竜人の首を握りしめた。段々と息が詰まってくるせいでぼやける視界の中、笑っているスワンの姿が目に入った。
首根っこを捕まれたまま向き合ったスワンは、首を絞めている左手に力を入れながら嫌味を言った。
スワンは左手をさらに強く握った。周りを響かせるほどの悲鳴がその場を満たした。

"はぁ…こんなに面白いことを今まで君たちだけでやっていたんだ?"

寒気のゲルダ(CV:紗倉のり子)

あの方の池を汚すなんて…

冷ややかな冷気をまとった美しい女が孤高な眼差しで下を見下ろした。
眩しいほど蒼白で蠱惑的な女の姿に、皆我を忘れてしまった。
もしかしたら、身を切るような寒さで頭まで凍り付いたせいで思考が鈍ったのかも知れない。

"よくも…その汚い足であの方の圏域に踏み入りましたね。"

怒りと嫌悪の感情が込められた言葉だったにもかかわらず、女はひどく無感情で冷ややかな表情だった。
目の前の美しい女が発した言葉とは到底思えないほどに。
だがそんな非現実的な感想も束の間、息が凍り付いて呼吸すらできないほどの寒気が押し寄せてきた。
一部はその寒さで立ったまま気絶し、一部は身体に開いている穴から入り込む寒気に苦しみながら喚き散らした。

地獄は血肉と魂を溶かす劫火でできた深い穴というが、
今この場所がまさに地獄だった。
極寒の寒さと苦痛さえも感じさせない寒気の中で、段々と感覚を失いながら固まっていく仲間を見る現世の地獄…

四肢の感覚が鈍くなっていく間にも、目の前の女は眩しいほど美しく恍惚としていた。
まるで氷で作った女神のように…

"冷たい安息があなたに届きますように…"

寒さの中で消えてゆく命を見て発した言葉にしては、あまりにも平穏で冷静なくちぶりだった。
氷に感情を刻めば、あのような創造物が生まれられるのだろうか…?
ちくしょう、思考まで凍ってしまったのか、まともなことが考えられない。

足先から感覚がゆっくりと鈍っていくのを感じながら、ただぼうっとあの女を見つめる事しかできない。
沁みるほど冷たく、凄まじく美しい結晶…
もしかしたらあのクソッたれ見たいな竜人に殺されるよりは、彼女に殺された方がまだマシかもしれない…
そう思いながら鈍っていく身体を寒さの中に委ねた。

電撃のステイツ(CV:今給黎剛)

お前の勇気を試してみよう。

目の前に置かれた槍がまるでそう語りかけているようだった。
ステイツは固唾を飲みながら、堅い表情でクラチェの槍の柄を握りしめた。

"ウウム!"

かみしめた唇の間から呻き声が漏れた。
槍の柄を握った手から始まった震えが全身に広がっていた。
血管が破れ真っ赤になった目を剝いたまま、彼はゆっくりとした動きでクラチェを宙に振り始めた。

一閃
クラチェの電流にさらされた全身の筋肉が悲鳴を上げ始めたが、彼はそれを無視してもくもくと姿勢をとった。
虚空の一点を突く度に、放出された電流が周りに飛び散る。
見ている人を退屈にさせるほどゆっくりしていた突きは、いつの間にか稲妻より早いものに変わっていった。

二連
一点だけに向かっていたクラチェの槍が異様に歪んだ。
突きつけられるよりもっと強く早い力に折れてしまった軌跡が、破裂音を発しながら四方を引き裂いた。
黄金色の気運が幻のようにその後に続いた。

ステイツの全身からうっすらと煙が立ち上がった。
見栄えのいい肌と鱗が黒く燃えていた。
それでも彼は、もはやまるで踊りのように変わったその動きを止めなかった。

いつの間にか押し寄せてきた黒雲が空を覆った。
他の竜族達はまだ眠りについている夜明け、黒雲の楼閣ではひっきりなしに雷が鳴り続けていた。

魔竜バシリスク(CV:杉崎亮)

王が魔眼を授けて曰く、何人たりとも竜族と向き合えないようにしろと命じられた。
魔眼の主になった竜人バシリスクは王の言葉を嚙み締めた。決して、人間は竜族と共存できない。
人間はただ単に竜族に踏みにじられるべき存在だ。力をもって存在価値を証明する竜族において、人間は果てしなく弱くみすぼらしい生き物だった。
生まれ持った強さが違い、能力が違う。人間はただ群がることしかできない軟弱な存在なのだ。

なのに、お前はなぜそんな軟弱な人間などを…

バシリスクは住処を離れ戦場に向かう道中、自分によって石にされてしまった天界人達の石像と遭遇した。
石像の間を通り過ぎる彼の身体の周りに漂う青い気運が、まるで死んでいった者達の魂であるかのように宙を漂った。
石像達の力動的な姿とは裏腹に、ゆっくりとした足音だけが周りに響き渡った。

石になってしまった我が子を抱いてすすり泣く母の石像を通り過ぎた。
人々を守ろうと、懐から武器を取り出していた者の石像も通り過ぎた。
ゆったりした足取りは、道の最後にあった一つの石像の前で止まった。
お互いを守ろうとして一緒に石になってしまった恋人達の姿をした石像の前、バシリスクはそこに立っていた。
バシリスクはしばらくその場で石像を眺め、再び後ろを振り返って歩き出した。

"お前が今の俺を見たら、どんな風に思うだろうか。"

バシリスクは石像を後にし、戦場へと歩み出した。

"メジリア…お前は間違ってる。いや、お前の考えは間違ってなければならない。"

去って行く足取りがさらに重く響いた。

眠たい眼のロタンド(CV:吉田誉)

ぶううん-

ロタンドはどっしりとした図体で地面を蹴って飛び上がった。
ゆっくりと風を切りながら、まるで宙を舞うように動き始めた。
いつもと違って軽々しく宙に浮く体、溢れる力に慣れない感覚を覚えた。
そして最も重要なのは、四六時中襲ってきた眠気が全くしなくなったということだ。

"もう!今日みたいな日にスワンの奴を懲らしめてやらないといけないのに…"

ロタンドはスワンを探すため、目を皿にしてあちこちを調べた。
そのうち、片方にぼうっと立っているスワンが目に入った。
今日は何がなんでもスワンの鼻っ柱を折ってやる。

"スワン!今日という今日はこのオレが一発で勝ってやるぞ!"

"......"

"言葉も出ないほど怯えてるのか?フフフッ!"

ロタンドはスワンに向かって猛スピードで突進し、全身に力を込めて体当たりした。
彼は体を支えきれずその場に力なく倒れるスワンを見て、豪快に笑い倒した。

"フハハ!あんなに強がっていたくせに大した事ないな!"

その時、周りが溢れ出るように崩れ始め、全てが踊るように揺らめいた。
周りが全部うっすらとぼやけるのを見て、ロタンドはゆっくりと瞬きをした。
倒れいるスワンの姿は粉々に砕けていて、ロタンドは朦朧とした気運が体にしみこむのを感じた。

「まさか…」

ロタンドは夢ではないだろうな、と切実に祈りながら瞑っていた目をパチリと開けた。

「また寝てんのか?つったく…起きろ。人間どもがこっちに向かっているらしいから。」

後ろから聞こえてくる聞きなれた声に、ロタンドはゆっくりと後ろを振り向いた。
首を横に振りながら舌打ちをするスワンが目に飛び込んだ。
ロタンドは今までの事が全て夢だったことに腹が立ったが、どんどん重くなる瞼を開ける気力すら残っていなかった。
寝るのは今だけで、次はどんな手を使ってでも勝ってやると、ロタンドは決心したのだった。

賢竜ザミル(CV:松本忍)

幼い竜族は全身の感覚を研ぎ澄ませ、いつにもまして慎重に体を動かしていた。

小さな丘の上に、彼が目標にした年老いた竜の姿が見えた。
自分の接近に全く気付いていないのか、依然として絨毯の上で胡坐をかいたままだった。
最初は瞑想していると思ったのだが、そのうちただ眠気に勝てずうとうとしていると確信できた。
ふと自分を止めていた他の竜族達の警告を思い出したが、幼い竜族はあえてそれを無視した。
どう見ても、目の前にいる相手は噂通りに強大な力を持っている存在ではなかったのだ。

これはチャンスだ。

数日間老衰した竜を観察した末に、彼はザミルに関する噂は間違っているという結論を下した。
もちろんそうだとしても、これはいいチャンスになると思った。
他の竜族達に、自分の勇猛さを深く印象付けられる良い機会。
考えをまとめた幼い竜族は爪を立て、両足の神経を研ぎ澄ませながら体を縮こまらせた。

数日間悩んでいたのが嘘のようなあっという間の奇襲だった。
自分の爪があのみすぼらしい鱗を引き裂けることに一点の疑いもないような動作だった。
目の前の老いた竜の姿が一瞬ぼやけたと思ったその瞬間、視野がひっくり返り体が床に叩きつけられた。

"どうやって…"

幼き竜族が驚がくした顔で苦しみながらうめき声を出した。
いつの間にか両手両足が魔力で作られた刃に貫かれて、身動きが取れなくなっていた。
彼は体を起せないまま何とか首だけを回し、全く別の方向から現れた賢竜の姿を目にした。

"愚か者…"

幼い竜族は、その時初めて自分が引き裂いたと思ったザミルの姿が実は幻影であったことに気が付いた。
それも、竜族の感覚でも異常を感知できないほどとても精巧に作られた幻。
状況を理解した幼い竜族の額に冷や汗が浮かんだ。

"これまでに儂を見くびって奇襲をかけてきた奴が、まさかお主だけだったとでも思ったのか?"

老いた竜は絨毯に乗ったまま、冷たい目で幼き竜族を見下ろしながら手を振った。
宙に新たに現れたいくつかの刃がその手振りに合わせ、舞い踊るように近づいた。
ザミルの背中と腰は相変わらず曲がっていたが、幼き竜族の目にはどんな竜族よりも巨大に見えた。
それが、生の最後の瞬間に幼き竜族の頭をよぎった考えだった。

地域

乾化門

バカルに占領される前、宮殿の正門として使われた門。
竜族が侵略して来た以降に扁額がなくなったせいで名も無き門と呼ばれ、数百年間バカルの圧政の象徴となる。
扁額がかかっていた箇所は空いていて、両側の壁は崩れたが、二つの柱と屋根は元のまま残っている。

暴龍王の正殿

バカルの宮で最も威厳があって大きな建物。
過去には天界の宮殿を象徴する建物だったらしいが、バカルに占領された後はその内部すらもドラクヴァルトを思わせる場所に変わってしまった。
炎の如く燃え上がった仲間の思いを背負い、天界連合軍は最後の決戦のため暴龍王の正殿に向かう。

暴龍王の道

バカルの正殿に向かうための最寄り道。
バカルに合うためには必ず通らなければいけない場所であり、バカルの手下達が徹底的に守っている。
この道の先で暴龍王に会えるのか、その途中で暴龍王の軍隊に全滅させられるのかは誰にも分からない。

暴龍王の圏域

竜の圧政、奪われた地、天界人の怒り…数多くの単語を表しているたった一つの象徴、バカルの宮。
その中の全てはたったのひとりの竜のために存在し、動き、死んでゆく。結局は天界の全ての場所がバカルの宮、全ての地域が暴龍王の圏域だ。

狂竜の滅尽堂

狂竜ヒスマが留まる場所。
あまりにも乱暴で凶暴なヒスマのせいで、まともに残っている建物がほとんどないほど、周りは廃墟と化している。
同じ竜族でさえもヒスマの足や尻尾の下敷きになることを恐れ、めったに近寄らないらしい。

死闘の牢獄

バカルが天界を支配し始めて以降、彼に対抗する天界人達を閉じ込めている牢屋。
近くにヒスマの領域があったせいで、天界人にとってはこの牢獄に閉じ込められること自体が恐怖だったという。一時は捕らえた天界人達で闘技場を開いた場所でもある。
後にヒスマが暴れたせいで牢屋が壊れてその役割を失ったが、地層が割れたせいで険しい地形になった。

廃墟の上の花園

狂竜ヒスマの影響で崩れた廃墟の上にできた花園。
本来は苔や蔓で覆われていた庭だったが、この場所を気に入ったある存在により、庭の中に数々の花が育ち花園となった。
しかし、あまりにも多くの植物が生い茂りもつれたため、一層奇怪にも見えるこの場所を、果たして花園と呼べるのだろうか。

死竜の魂魄堂

死竜スピラッジが留まる場所。
彼に殺された後、あの世に行けなかった亡者たちの魂魄が残っているせいで、陰湿で冷たい気配を帯びている。
スピラッジがここに腰を据えてからというもの、強力な死の気運が広まり同じ竜族達も出入りをはばかるようになった。

空虚な魂の蔵

ブロナが自分より弱い存在の魂を奪い、その魂を集めておいた倉庫。
彼女に制圧された者達、つまり天界人と力の弱い竜族達の魂が入り混じっている。
ブロナは度重なる戦いで気力を使い果たす度に、ここに集めておいた魂の生命力を吸収して回復したりする。
その度に魂達の凄まじい絶叫がこだまするという。

色褪せた金柱庫

スワンが天界全域を略奪して集めた金を貯めておいた場所。
金貨と様々な形の金塊が山積みになっているが、長い間放置されたように白い埃に覆われている。
スワンに奪われた金を取り戻そうと金主蔵を訪れる者がたまに現れるが、その度にスワンに見つかってこっぴどく仕返しされる。

冷竜の闘寒堂

冷竜スカサが留まる湖。
元々は天界の絶景として挙げられるほどの場所だったが、スカサが腰を据えてから全てが凍り付いてしまった。
地面と湖の境目を区別できないほど凍り付いてしまった湖と、すぐ隣の人すら識別できないほどの吹雪が吹き荒れる極寒の地だ。

不動の池

まるで時間が止まったように動かない池。
スカサの影響で全てが凍り付いた池の流れは、まるでこの場所の時間も止まっているかのように感じさせる。
水面を彩っていた美しい植物さえも全て凍り付き、弱い風にも砕けそうな危なっかしい姿で池を守っている。

黒雲の楼閣

湖から発せられた冷気のせいで、いつも暗雲に覆われている楼閣。
四方が開けている巨大な楼閣は、本来は湖を眺めるために作られた場所で、湖を訪れた天界人達の憩いの場所だった。
しかし、美しい水のせせらぎと自然の姿はもう見る影もなく、スカサの影響で生じた巨大な氷の彫刻だけがその場に立っている。