ストーリー
シノプシス
しとしとと降る雨は、もう何日も止む気配がない。
水の浸みた靴を踏みしめるたび、ブリムは不快感に襲われていた。
しかし、それ以上にブリムを不快にさせたのはこの状況であった。
「村長、私は妖怪ではありません!」
村長の前にひれ伏した住民が必死に無実を訴えるが、
彼の手はすでに醜く変形していた。
人鬼だ。
「自分の手を見てもまだそんなことが言えるのか? 何をしている! 早くサラ島へ連れていけ!」
村長に命令された屈強な男たちが、鬼に変わり始めた住民を引きずり始めた。
「村長! どうして信じてくれないのですか! 私は妖怪なんかじゃありません!」
見向きもせず身を翻した村長の眉が、微かに震えていた。
妖怪が人間になることはできないが、人間は妖怪になってしまう。
いつからだろうか。互いを疑うようになったのは。
信頼する心にヒビが入り始めたのは。
ブリムは、歯を食いしばったまま大きく息を吸い込んだ。
慣れようにも慣れない妖気を含んだ紫色の空気が、肺いっぱいに満たされていく。
鉄の味だ、鉄の味がする。
「そう気を落とさないでください」
その様子を伺っていたムの目の信徒が、ブリムの両手を握りしめた。
その手はあまりに冷たくて、ブリムは思わず身震いした。
「霧ノ神は我々を見捨ててなどおられません。暗い島に遺物がありますから、じきに監視者の村にも平和が訪れることでしょう」
霧ノ神、か……
霧ノ神は何をしておられるのだろう。きっと、この仙界を救うために今も……
神から授かったこの能力を、僕は役立てられているのだろうか?
そこに思い至ったブリムは、丁重に信徒の手を離し村長のところへ向かった。
「暗い島の生存者を探しに行ってきます」
「また時間を無駄にするつもりか」
「それが……僕にできることですから」
そう言ったブリムが船着き場へ向かおうとした瞬間、壮大で切ない監視塔の鐘の音が村中に鳴り響いた。
モンスターストーリー
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信義を裏切ったラルゴ
完全ではないが、久しぶりにこの姿になったな。
白海の水たまりを、まさか妖怪が我が物顔で覗き込んでいるなど監視者たちは夢にも思っていないだろう。
いつだったか……誰かが、なぜ白雲の監視者になったのかと訊いてきた。
「愛する故郷と、千年にわたって続いた信仰と信念。その理念に感銘を受けて監視者になりました」
そして僕は何と言ったっけ。
「旅の途中で監視者について知り、彼らと意志を同じくしたいと思い、ここに来ました」
そうだった。確かにそう言ったが、本気でそう思っているわけがないだろう。ばかばかしくてナブーに鼻で笑われてしまう。
千年という長い時間を。決して来るはずのない客を待つためには、あの大切な「調和」を守るためには……
そうやって夢を見ざるを得ないだろう。
信仰か。
僕が仕掛けた罠だとも気づかずに、助かった、と毎回お礼を述べる監視者たち。面白おかしい。
自分たちがどんな選択を迫られるのかも知らずに、この手を握りベールを垂れ下げて、それが霧ノ神のためだと言っている司祭。
どちらにしても目の前の不安定な水面と同じ。
僕の手招き一つで乱れ、ともすればいずれは乱れるだろう。
僕はその瞬間を利用して楽しむだけ。
「ラルゴ様! ラルゴ様、どこですか!」
またピエロに戻る時間か。
そうだった、ナブー。僕の可愛い神獣のことも忘れてはいけない。
「ハハ、ごめんなさい。ちょっと出かけてたんです。僕は珍しい物に目がなくて……」
「エルリッヒ様からの伝令です!
「エルリッヒから?」
ブルーホークと同行している怪しい者たちが渓谷を目指している。
愚かな人間たちか?それともまさかあの客が?
どちらでも構わない。すでにあの暗い島からあの方のための計画は始まったのだから。
だが、念には念を入れて迎えに行こう。
乱脈のラルゴ
全身を裂かれ、燃えるような苦痛に耐えて
呑まれそうなほど激しい流れをさかのぼって
ここにたどり着いた。
息を吐くと白い霧に覆われた大地が視野に入った。
苦しみも痛みもない世界。
乱脈の地とは違って、全てが真逆の世界。
ここに溶け込み、彼らが享受しているその全てを汚してやるのだと思うと
今まで感じたことのない喜びが湧いてくる。
傷つき、傷つけ、
背いては裏切るを繰り返し、
互いを分け隔てる人間たちが
胸の奥に隠し持っている醜悪なまでの偽善。
まもなくその偽りの心が水面に浮かび上がるだろう。
そんなことを思っていると笑いが止まらない。
もしかすると、僕がやることはあまりないかもしれない。
彼らの持つ悪を引き出してやるだけでいい。
彼らが互いに騙し合い、裏切りあっている間、
享受していた世界は奥深いところから腐っていく。
不信違乖ラルゴ
「くああっ……くうっ……」
ラルゴは捻じれる体を何とか落ち着かせた。
へその下辺りから込み上げる強大な力が激しく揺れ動いた。
それと同時に激しい苦痛に襲われた。
ラルゴは重たい体を真っすぐに起こした。
やがて、苦痛の入り混じる耳鳴りが地上に響き渡った。
彼の後ろには黒紫の妖気が広がっていた。
赤色と青色を帯びた気運が妖気を覆い揺れ始めた。
ビキビキーッ-
挙句、彼の重さに耐えきれず
監視塔に大きな亀裂が入った。
その隙間から粉塵が舞い落ちた。
粉塵が収まると、ラルゴは顔を上げた。
遠くに彼らの姿が見えた。
霧の向こうの世界からやってきた者たち。
「……愚か者どもめ。
これを凌駕するものをこしらえたというのに」
ラルゴは冷ややかな笑みを浮かべた。
「足を踏み入れる全ての場が乱脈の地への道だと思い知らせてやろう」
言い終えた彼は全身の力を振り絞って空中に飛び立った。
強大な力の波動によって空間が一瞬、歪んだ。
彼が立ち去った所に妖気が広がった。
人物
霧の監視者ブリム(CV:永峰新)
監視者の村で生まれ育った少年。
慎重で物腰柔らかだが、誰よりも芯が強い。
暗い島から来た妖怪が村を脅かし始めると、村の人たちを守ろうと進んで前面に立つようになった。
「暗い島の監視者」として活動し、村を取り巻く恐ろしい事件の調査をしている。
しばしば危険な状況に陥ることもあるが、霧を扱う能力で自身の身を守っている。
村人たちは彼の能力を「霧ノ神から授かった祝福」だと鼓舞するが、ブリムは混乱する一方である。
ただ自分の能力が、正しいことに使われるよう願っている。
村長バーナス(CV:八幡諒)
監視者の村の村長。
監視者の村で生まれ、漁師として生きてきた。
無愛想だが、実直な性格と村のために率先して行動する姿は人々の信頼を集め、長らく村長を務めている。
しかし、誠実な漁師や人のいい村長だけでは、暗い島から押し寄せる妖気と妖獣から人も海も守ることができなかった。
彼は残った人々を守るため、小さな危険すらも徹底して排除しようと決心する。たとえ、その対象が村人であろうとも。