エピソード

いまアラド大陸で何が起きているのか…

エピソード4.ダークエルフの商人セルジミン

「ちょっとセルジミン、これ、ちょっと高すぎじゃないの?頭がクラクラするよ。うえぇ……」
「あんた乗り物酔いしてるくせに本当におしゃべりだな。空を飛ぶ船が高い所にいるのは当たり前だろうに」
「確かにそうだけどさぁ……あう~クラクラするよ。本当に、うぇっく……」
「……」
「セルジミンちょっと背中叩いてくれない?おねが~い、うっく、うえぇ……」

セルジミン、眉間にしわを寄せながら、
「まったく、もっとお客を選んで乗せるべきだったな。困った奴を乗せちまった」
セルジミン、乱暴に背中を叩いてやる。
「はあ~ちょっと良くなった。でもちょっとひど過ぎじゃないの?お客さんにこんな乱暴をしちゃいけないよ、ね?」
「乱暴にしたって?フン、いやだったら降りればいい。
乗り物酔いするのに乗る方が悪い。あんたみたいな奴はごめんだ。
それに何故私がこの船に人を乗せているかわかるか?
よくわかっていると思うが、あんたが乗っているこの「マガタ」は安物じゃない。
商売で荷を運ぶのに使うんだ。あんたが船賃で出した短剣なんて扱っている数千種類の商品の一つに加えられるだけだ。
要は人を乗せるのはついでで、乗せなくてもいいということだ。
そういうわけだから……」
「分かった、分かった静かにする!私が悪かったよ。
偉大な商人セルジミンさん!」
「始めから大人しくしてくれれば良かったんだ」

「セルジミンさ~ん」
「今度は何だ。少しぐらい静かにできないのか?
それとも本当に降りたくなったのか?」
「いや、そうじゃなくて聞きたいことがあって」
「何を聞きたいのかしらないが、あんまり騒がしいとそのロを針と糸で縫い止めるからな」

「あの…セルジミン?」
「縫い止めると言ったぞ」
「セルジミン、それは私の話を聞いてからにしてよ。
本当に聞きたい事があるんだからさ」
「答える義理はない」
「セルジミ~ン。そんなこと言わないでよ。セルジミンは空で行ってない場所はないって評判の偉大な商人じゃないの~」
セルジミン、お世辞とわかっていても多少気分が良くなる。
「セルジミ~ン、聞いてもいいよね?
あのあそこ、遠くにあるあの白い棒みたいのは何なの?
雲の下からもっとずっと上、空のてっぺんまで繋がってるみたいに見えるけど」
セルジミンはしつこいお客さんに負ける振りをしながら、
「あれは天城だ」
「天城?」
「そう、天城だ。
誰が名付けたのか、いつからあそこにあったのかわからないが、
天城と呼ばれている」
「先日、私の船に乗った剣士が話してくれたことだが、天城は大昔のエルフ時代には上の世界と私たちの世界を行き来させてくれる所だったそうだ
「それじゃあの雲の上に他の世界があるの?」
「聞いた限りではな」
「う~ん……ねえ、セルジミン。その話は昔の話だよね?今はそうじゃないの?」
「ああ。何百年も前に突然天城に光り輝く戦士が現われた。
その戦士は天城を通ろうとする全てのものを壊すので、人々が通れなくなった」
「へえ、そうなんだ。その輝く戦士ってのはすごく強いみたいだね」
「会ったことはないが、おそらくはな」

お客さんは好奇心が満たされたのか静かになり、
セルジミンはしばらく自分の作業に没頭する。

「セルジミン!セルジミン!」
「今度は何だ?乗り物酔いがぶり返したか?」
「や、そうじゃなくて。
セルジミンは上の世界を見たことあるか聞きたかったんだけど……」
「見た事がない、以上。では静かにしてくれ」
「セルジミンは上の世界に興味はないの?」
「頼むから静かにしてくれ!あんたのその好奇心には感心するが、
いちいち人に話しかけるな」

お客さんは間こえない振りをしている。
「あ~あ、上の世界には何があるのかなあ……」
「……」

セルジミンはぽつりとつぶやく。

「昔、上の世界を見ようとしたことがあった」
「へ?」
「父からこの船を譲られてから間もなかった時だった。たしか百十歳だったかその辺りの話だ。
その頃はあんたのように上の世界のことをとても知りたかった。
本当に上の世界があり、そこでは地上と同じように人が住んでいるのか?
それともエルフたちが住んでいるのかと知りたかった。
まあ、まだ若かったからあれこれ話にもならない想像をたくさんしたわけだ。
そうしたある日、荷を全て降ろし、食糧と水を一週間分だけ乗せて空に向けて出発した。本当に他の世界があるのか知りたくて仕方なかった。
それでずいふん長い間上に昇ったが、そこで妙なものを見た。目を疑ったよ。
言葉では表現できないほど大きな化け物が空にいた
「本当に?空にそんなにでっかい化け物がいたの?」
「ああ、本当だ。あの時ほど驚いたことはない。
遠くから聞こえたその化け物の息吹を今でもはっきり思い出せる」
「私も見たいな~」
「その大きな化け物だが、ついさっきその上を通過した」
「ええええ~~~~~!?ちょっとセルジミン!!私見てないよ!?」
「もう通過したと言った」
「ねえねえ、セルジミン」
「何だ?」
「引き返して♪」

「……」
「……」

「駄目だ」
「見たい~!」
「駄目と言ったら駄目だ」
「見たい見たい見たい~~~~~!!!」
「……」
「どうしても駄目?」
「当たり前だ」
「ケチ!」
「降りろ!」

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