エピソード
いまアラド大陸で何が起きているのか…
エピソード20.第9章/思ったより早く
今から500年前。天界。
機械革命。
7人のマイスターの意志を受け継いだ天界人たちは長年彼らの研究成果を研究し、発展させてようやく自らバカル軍に抵抗できる力を手にすることができた。
ある日、天界人たちは皆力を合わせてバカル軍に同時多発的な攻撃を与え、天界の全都市が人々と共に荒い悲鳴を上げながら燃え上がっていた。
バカルは自分の宮殿バルコニーから戦争で燃え上がっている都市を見つめながらワインを飲んでいた。
しかし、彼の余裕のある表情にはそぐわない耳を裂く爆発音があちこちから続けて聞こえてきた。
「もう…時になったのか」
バカルは後ろを振り向かず言い続けた。
「思ったより早かったな、ヒルダ」
そうするとバカルの後ろの暗闇から女のシルエットがそっと現れた。
「実に長い間私の前を遮っていましたね。しかし、もうこれ以上はいけません。バカル様」
ヒルダはバカルの横に立ち、バカルと同じ方向を見つめた。そこには燃え上がる都市があった。
「少し早くないか?まだこの世界には私を相手できる者はいないはずだが。
もしかして天界人たちがあのおもちゃのような機械をいくつか作ったから私の最後が見れるとも思ってここまで来たわけではないよな?」
「もちろん違います」
ヒルダはしばらく間を置いて言い続けた。
「しかし、未来から来た者たちならどうでしょうか」
「フフフ…未来か…焦っているようだな、ヒルダ」
ようやくバカルは顔をヒルダの方に向けた。
「彼らが私に挑戦できるくらい特別なのか?」
ヒルダはじっとバカルの目を見つめては口を開いた。
「おそらく」
バカルの眼差しが凄まじくなり、彼の体中から黒い気運が漂い始めた。
粗い鉄塊が割れるようなバカルの怪声が大地を揺らした。それでもヒルダは無表情な顔で彼の手から落ちるワイングラスをじっと見つめていた。
彼女を覆うバカルの影はますます巨大になり、周辺を暗黒に塗り替えた。
「使徒たちすら私を相手できないのに、」
バカルはいつの間にか巨大な黒い龍になってヒルダを見下ろしていた。
「何者が私を相手できると!」
天地を覆そうな巨大な威容を誇りながら豪快に笑っている黒い龍をヒルダは相変わらず無表情で見つめていた。
いや、実は彼女の口元には微かな微笑みが浮かんでいたがバカルには見えなかっただけだった。