エピソード
いまアラド大陸で何が起きているのか…
エピソード12.神様、どうか私の祈りを……
「お呼びでしょうか」
若くて壮健な男女が大聖堂に入りながら大主教に挨拶をした。
二人とも重たいヨロイを着ていたが、
男の方は圧倒的に壮健な身体と色合いの
暗いヨロイのせいで相手を息苦しく感じさせる。
女の方は白を基調とした明るいヨロイと
すらっとした体のせいでヨロイの重さは
ほぼ感じられないほど軽く見える。
「聖なる力のご加護がありますように」
「聖なる力のご加護がありますように」
丁寧に挨拶をした後、大主教メイガが話を続けた。
「黒い聖戦を勝利に導いた者達の子孫よ、そなた達は自らの意志で運命に従って世の中を混乱させている偽装者達を処断するために身を投じ、
黒い聖戦を勝利に導いた。偽装者達がどんどん減ったのも我らの努力による成果であったと信じていたが……」
言葉じりをごまかすメイガの言葉が二人のプリーストの耳のもとで響いている。
「アラドの大陸に発生した転移という現象が次元のすきを作ったらしい。
他の次元にあるオズマの力がまたもやこの世界に影響を与え始めたようだ。
あちらこちらで偽装者達の数が増えていると報告が入ってきている。
また、今度はオズマと関連があると思われる悪魔達が直接この地に姿を現しておる」
「オ…オズマが!」
オベリスは自分も気づかないうちに短く悲鳴を上げた。
かたやテイダ=ベオナールは意図知れぬ薄笑いを浮べていた。
「私がそなた達を呼んた理由は、我々元老達の意向を知らせるためだ」
メイガはしばらくの間、黙っていたが、また話を続けた。
「今こそ我々が再び世の中へ出る時が来たらしい。既に世の中には冒険者と呼ばれる強い戦士達が多く現れたようだ。私を含めたプリーストの元老達は我々も世の中の浄化に力を合わせるべきだと思っている。
オズマの動向を探りながら」
メイガの言葉が終わると同時に、待っていたようにテイダが話を続けた。
「フフフ……その言葉を待っていました大主教様。
もう弱い偽装者達を探し出すのも面倒に成っていたところでしたので」
こいつは本当に聖職者とは縁遠い男だなと考えながらオベリスも鋭く言い放つ。
「あなたは世界の浄化より自分の虐殺本能に忠実のようですね。テイダ」
「オ…オベリス。おまえはまだ堕落した偽装者達も人間に戻せると私を説得するつもりなのか?
それならば転移で凶暴になったあのモンスター達も一度説得して見せてくれ。ハハ」
「そんな方法があったとしたらそうするべきでしょう」
「ハハハ。おまえは無駄な考えで一生悩んでいる変わり者だよ。
もしかするとそれがおまえの魅力かもしれないがね。ハハ」
「美しきもの…それこそが本当の聖なるものです。あなたはもっと聖なる者になる必要がありそうですね」
「おまえが私の聖なることを論ずるのか。おまえのやり方じゃ一生経っても偽装者一匹も消すことはできないだろうよ。
少なくとも我々インファイター達はそんな無駄なことで悩む者はいない。
少なくとも我々は人間達に被害を与える邪悪なものどもを減らしているという話だ。
邪悪なものは全滅させるべきだ。
例えそれが自分の家族であってもな。
自分の主張を曲げることのない二人の若者を見ながらメイガが言い渡した。
「さあ…やめないか二人とも。
皆自分のやり方で聖なることを行っていくことを……」
「申し訳ございません。大主教様」
「しかし、私を含めた元老プリースト達からは、そなたとインファイター達が追求している方法はすこし危険なように見えるのも事実だ。
自分の身体を鍛え強くする姿勢は良いのだが、他の生命体を倒して、そこで感じられる快感に溺れてはいけない。
それは神様の下さった試練だということを忘れてはならん」
「し…しかし、ああいうもの達を生命体と認めるわけには……!!」
「そうではない。神様がお創りになったものは神秘的なもの。そこに何の美があるか人間の短絡すぎる考えで判断しようとしてはいけない。
そこには必ず何か理由があるはすだ」
「ハハ。確かにそうであります。
それは世の中に私みたいな人間が必要だということを教えてくれる美があります。人間達に害悪を与える凶悪なものを消す聖なる使命を抱いて生きている人間のことを!」
「ふむ…そなたのやり方が危険なように見えるとしてもそなた達のやり方を理解できない訳ではない。これもまた、神様がお創りになったものであれば受け入れるしかないであろう」
テイダはもう話を続けないまま静かに立っていた。
……
テイダが去った後、メイガはこっそりと自分の孫娘を呼んだ。
「オベリスよ。テイダの真面目すぎる性格が私は心配なのだ。
恐らくおまえ達のようなクルセイダーの手助けが必要となるであろう」
「心配しないでください。おじいさん。
彼はどんな状況に遭っても簡単に諦める男ではありませんから」
「そう…そうだろう。
でもあまりに真面目すぎる性格はいつも不幸を感じさせるものだ……」
「分かりました。でも、彼は助けを求めていないはずですよ」
「そうであろ。だから私がこうして特別に頼むのではないか」
「はい。おじいさん」
「そう。おまえは昔からこの私の言うことはよく理解してくれたね」
自分に丁寧に挨拶して返っていく孫娘を見るメイガの視線には、
いつもより多くの危惧と愛情がこもっていた。
“我々の運命はいかになるものか……。
過去の黒い聖戦の時よりも混乱しそうな事が起こってるようだな……。
神よ、私の祈りを聞いてください。
どうかこの若者達を見守ってください。”