エピソード
いまアラド大陸で何が起きているのか…
エピソード3.鬼剣士ペトリシアン
「グアアァ!!! ハッ…ハッ…ハッ…」
このごろはまともに眠れない。
いつからか私の腕にとり憑いた鬼のせいなんだよ。
じっとしていると、こうになった時のことを思い出してしまうんだよなあ。
私が小さい頃のことだよ。
山賊が私の家にやって来て父さんを刀で脅かしたんだ。
父さんは刀で斬られて倒れたよ。
それでとにかく頭に来てね怒りに我を忘れたって言うのかな?
自分でも何を言ったのかわからないけど、
大きな声で叫んで気を失ったんだ。
父さんは何とか一命を取り留めたんだけど、
私の方はその時に鬼にとり憑かれたみたいなんだ。
あの日を境に、腕が少しずつ浅黒く変わっていったからきっとそうなんだと思う。まあ、思い当たるのがそれぐらいしかないしね。
それから父さんはどこからか手に入れてきた太い鎖で私の腕を縛ってこう言ったんだ。
「鎖をしていれば力が強くなるから」
とね。
とても重かったけど、それでも町内の子供達よりカが強くなって言うんで割と楽しんでたよ。
実際にはそれが腕にとり憑いた鬼が心臟へ力を伸ばすのを阻んでくれるものだってことも知らずにね。父さんが私のためにやってくれたことだし、
その時はおまじないだって思ったからね。
だから絶対離さず、必ず鎖を腕に巻いてたんだ。
ただ一回だけを除いて……。
ある日私は町内の子供達にしつこく鎖のことでいじめられてね。
それで悔しくなって鎖を解いてしまったんだ。子供の私にも簡単に解くことができたよ。それで鎖を外したまま家に帰ったんた。
ところがその後、家に帰る途中でだんだん息が苦しくなってきてね。
その時には今日は遊びすぎたのかな?ぐらいにしか考えていなかったね。
あの頃は自分の体力以上に張り切って遊んで疲れきってしまうこともたまにあったしね。
でも家につく頃になったら急に楽になってね。
ただ、自分の体が自分のものでないような、不思議な感じだったね。
おかしいな、と思っているうちに私の体が勝手に動き出したんだ。
自分でも驚くようなスピードでね。
それでそう、夕飯の支度をしていた母さんを吹き飛ばしてしまったんだ。
父さんもやつぱり同じようにね……。
そして両親は暴れる私を置いて一目散に逃げ出した。
それ以来一度も会っていないね。
うん、とうとう私は両親に見捨てられてしまったんだ。
2人を追いかけたかったけど、どうすることもできなかったんだ。
その時は鬼が私を支配していたからね。
それから私は目につくものを片っ端から壊していたね。
それでしばらくしてからぶっ倒れた。たぶん体力の限界だったんだろう。
鬼にとり憑かれているとは言え子供だからね。
次に起きた時にはもう鎖が腕に巻かれていたよ。
そこには初めて見る人がいて、私を眺めていたんだ。その人も左腕に私のような鎖をしていたんだけど、腕の色は私の腕よりもずっと黒かった。
ともあれ、その時から私は彼について行って、彼から鬼のことを学んだし、
それをコントロールする方法も学ぶようになったんだ。
もちろん剣を使う方法も彼から学んだよ。
今はこんな風に鎖を巻いていても毎晩悪夢にうなされるけど、そんな生活にも慣れてきたかな。
戦う時には便利だし、くよくよ悩んだって何も変わらないんだから気にしないようにしてるんだ。