エピソード

いまアラド大陸で何が起きているのか…

エピソード14.紅葉に染まる

第四章 紅葉に染まる

私が倒した赤ルガルたちがあちこちに倒れていた。
倒れているルガルの山。何匹くらいだろう。
十匹?二十匹?
パリスー行を探して何も考えずこの廃墟に入ってきたが、目の前に見えるのは赤ルガルたちばかりだった。
殺意で光るルガルたちの眼差しさえなければ、ここはタ焼け色に染まった紅葉の森と間違えたかもしれない。
眩しい赤色の体で素早く動き回るルガルたちの動きに惑わされただろうか。
先程から目眩がしていた。

“はっ…はっ……こいつら……倒しても倒してもきりがない。
ところでパリスは……どこにいるだろう。”

休む間もなく攻撃してくるルガルたちの爪を本能的に避け、
一匹ずつ倒しているうちに、ふと新しい感覚を覚えた。
私の足にルガルの爪がひっかかる感覚…ルガルたちの体に食い込む拳…ルガルたちの悲鳴。

“よし、今日はお前らを相手に思う存分楽しませてもらうぞ!!!”

私は、目の前のモンスターたちを手当たり次第に退治しながら快感を感じていた。
先ほどの疲れはいつの間にか消えて体が軽くなった気がした。
そう、私は強い。
私は長く口笛を吹いた。そして大きく笑った。
私は強い。私は強いから。
体中の血が逆流する気がした。私は破壊の神になり、ただ目の前にある全てを殴っては壊しているだけだった。

“そう、このまま永遠に何かを壊し続けていたい。
体中に流れている血の一滴一滴に大きな意味を持たせたい!”

高い空に向けて突然大きな声で叫んでいる私がいた。

その時、誰かが大きく振り回していた私の手首を掴んだ。

「おい、もうそのくらいでやめておけば?」

これは…パリスの声?

「ねぇ、そうするうちに私たちまで攻撃されそうだから。
と…ところで、あんた、どうしたの?その肌!」

彼女が掴んでいた私の腕を見た。腕は赤い斑点だらけだった。

「ふむ?」

顔を上げ、パリスと目が合うとパリスは少し驚いて掴んでいた私の手首を離して後ろに一歩下がった。

「こいつ、目が赤くなってるよ。もう正気を失ったようだ。
カプセルを飲んでいないかも」

パリスは向こうにいる味方たちに叫んだ。

「おい、誰か変異免疫カプセルを持ってない?」

そして私に話した。

「この青二才が。カプセルなしでここに入るとあんたのようになるからな。
とりあえす可哀想だからこれを渡すけど、これ以上耐えられないようだったら無理せず家に帰って休んだ方がいいよ。
我々はやらなければならないことが山はどあるから」

私はカプセルをもらってはパリスの後ろ姿を見つめていた。
彼女の後ろ姿は赤色だった。
紅葉のように、ルガルたちのように、私の手首のように、この世のように。

“パリス…パリスよ……彼女は強い。
彼女は全ストリートファイターたちの目標である。私が勝てるだろうか?
私も強い。彼女に勝ってみたい!”

私の血はいつの間にか自分でもコントロールできないくらい湧き立ってきた。

私は彼女の名を大きく呼んで宣戦布告した後、いきなり拳を飛ばした。
先はどの目眩は消えなかったが私の体はいつよりも軽く動いた。私の拳で宙に飛ばされたパリスは身軽く宙返りをし、着地しながら言った。

「こいつ!しつかりしろ」

彼女の話が終わる前に私の容赦ない蹴りが入った。
しかし、パリスは体を斜めにして素早く避けた。

「…あんたも路地裏の喧嘩屋、ストリートファイターだな?」

私は、パリスが話している途中にも素早く拳を飛ばし、連続蹴りを入れた。
パリスは激しい私の最後の蹴りを片手で阻止しては遠くに飛ばされた。

「あれ?なかなか面白いけど?」

私は彼女に休む間を与えす直線的な攻撃を与えた。
しかし、パリスは先ほどとは比べられないくらい速い動きで私の攻撃を全て避けた。

「確かにいい動きだけど、少し頭を冷やしてから攻撃してみるのはどうだ?」

後ろからの声に振り向こうとした瞬間、突然目の前に強烈な痛みが走った。

「ちっ…砂を投げたのか?」
「さあ、もうやめよう。私はやらなければならないことが山ほどあるから」

私はじっと立って彼女の動きを感じてみようとした。気のせいかもしれないが私の全ての感覚はいつよりも鮮明だった。
感じられる、彼女が!

「ひああっ!」

後ろから襲う私の攻撃を軽々と避けたパリスは、何かを決心したように独り言を言った。

「こいつ、このまま置いとくわけにはいかない」

私は再び攻撃を加えた。意識はもうろうとしていたがあの時に繰り広げた私の攻撃は実に最高のものであった。
迅速でキレイな動き。疲れを知らない体力。このような動きを繰り広げる自分自身に驚きながら、ますます楽しくてなってきた。
しかし、パリスはそんな私の攻撃を全て余裕で避けた。実力の差は確かに存在した。
だが、ここで逃げるわけにはいかない!
私は大きく脅かす動きを取って距離を置いた後、その場にじっと立ったまま感じてみることにした。前が見えないのは何の問題にもならなかった。
彼女の動きがあまりにもはっきりと感じられたから。
今度は左側に…感じられる!!
顔の左側から鋭い殺意が私に向かってくるのを感じ、私は素早く体をねじって避けた。

「ふむ?体はかなり鍛えたようだな。
しかし、我々のような路地裏の喧嘩屋たちは武術をする道化師ではない……」

今度は右側だな…私は彼女の動きを分からないふりをし、無防備を装って動いた。
予想より速いタイミングにパリスの拳が入ってきた。
私はその拳を体を反らして避けながら持っていた火薬を出すのと同時に彼女の首筋を掴んだ。

「捕まえ…!くううっ……」

しかし、私が掴んでいたのは彼女の破れた服だった。

「おお?火薬を使うのか?私の戦法がかなり広まったようだな……。
今回の作戦はお見事だったけど、少しイライラしてきた。
いたずらはこの辺にしておくか」

乱れた姿勢を正そうとした瞬間、耳元にささやく声が聞こえてきた。

「世の中を生きてきた一分、一秒」

私は気合いを入れて叫びながら声が聞こえる方向に拳を伸ばした。
そうすると遠くから再び声が聞こえてきた。

「生死の境を越えて生きてきた私だ」

鬼神…これは確かに鬼神である。姿は見えるが捕まえることはできない。

「今君の状況は実に気の毒だが、」

私は獣のように叫んだ。
これで体中に巻きついている息苦しさが少しは軽くなるのかな。

「悪いけど私は今君を殴って倒す」

私の息苦しさの正体は恐怖、まさに恐怖であった。

「これが私の好きな花火」

後ろへ振り向こうとした私の首筋が持ち上げられ、目の前に火薬が撤かれるのが感じられた。
息が…息ができない。

「型にはめられた愚か者たちが無理やりつけた名前。その名は一発火薬星だ!」

どかん…

耳を引き裂くような轟音と共に、私はこれまで見たことのないほど世の中がぐるぐる回る光景を目にした。
赤色の空に吐き出した私の赤い血の雫。赤い肌と赤ルガルたち。
そう、全ては紅葉に染まった。
私は、あまりにも赤く染まってその重さに耐えられず落ちてしまう落ち葉のように宙に舞い散った。赤く染まった紅葉が私の体に優雅に落ちてきた。
時間の流れが遅くなった世界は、私の体が地面に落ちる鈍い音と共に再び元に戻った。
私は…もっと優雅になれなかっただろうか……。

「パリス、こいつこのまま置いとくのか?」
「おそらくこのくらいで死んでしまう奴ではないだろう。
まあ、奴にカプセルでも飲ませて。
このまま置いとくと、こいつもここの実験場の影響で暴走して、そのままモンスターになってしまうだろう。そうなると厄介だから」

微かな意識の中の私の口に一人が丸薬のようなものを入れた。

「さあ、早く友達を救出しに行こう」

遠ざかる足音を聞きながら私は気を失った。

第五章 連鎖爆発

「ああっ!!」

耳を引き裂くような鋭い悲鳴に私は目を覚ました。

“何が…あった……?”

意識を取り戻そうとする前に目に入ってくる光景は数十、いや数百匹もの赤ルガルたちに囲まれている一群の人々であった。
その真中には見覚えのある一人の格闘家が倒れていた。悲鳴は……おそらく彼女のものだったようだ。

「あ、あれはパリス?そうだ、私はパリスに……」

その時、倒れているパリスの後ろを狙う一匹のルガルが目に入ってきた。
私は反射的に起き上がってはルガルに向かって体を投げた。そのルガルが目の前でパリスを襲おうとした瞬間、私は地面に落ちていた一つの石に念を宿らせてそのルガルを思いっきり打ち下ろした。
恐ろしい音と共にルガルの群れが散らばった。

「あ…?あ、あんたは?」

私はパリスに苦笑いを見せてはパリスの一行を追いかけていた赤ルガルの群れに飛び込んで念を宿らせて叫んだ。

「この赤い化け物め!ここを見ろ!!」

ルガルたちが一瞬びくっとして私に群がると私は周りの人々に叫んだ。

「皆死にたくなければ私から離れろ!」

私が何かをすると感じた皆が素早く私から離れると
ありがたいことに全てのルガルたちは吠えながら私を囲んだ。
人間たちが全員逃げたのを確認した私はロトンからもらった噴射用毒の塊を取り出した。

“そう…一度やってみるのだ。”

そして私に襲いかかるルガルたちを避けて高く跳び上がりながらその毒の塊を地面に投げつけた。毒霧は噴射器から出てきてまるで夜明けの霧のように広まった。

“そう、この香り。”

私は毒霧の中から念の力で毒気に耐えながら、霧の中で逃げ場を失って暴れているルガルたちを1匹ずつ退治した。
遠くからパリスー行の勝利の歓声が聞こえてきた。しかし、私は焦っていた。

“いや…このままでは毒の効力は全て消えてしまう。
時間が足りない…どうすればいい?”

まだ半分以上残っているルガルたち…ますます薄くなっていく毒霧を感じながら最後の瞬間を覚悟したその時…私の目の前を紫色で染めていた毒霧の中から、昔から私と一緒にいた誰かの声が聞こえてきた。

<…さようなら、今までありがとう…もう私を解放して……>

私は本能的にその声が望むことが分かった。
隠しておいた火薬の粉と共に目の前のルガル一匹の首を掴むと、
昔から感じられた見慣れた存在をはっきりと確認した……。
頬を滑り落ちる一粒の涙が感じられると、私は……低い声で一言を口から漏らした。

「さようなら…ありがとう……そして愛してる……」

目の前の掴まれたルガルの瞳孔が恐怖で満ちるのを感じたその時、
火薬が爆発すると共に体中の念が同時に燃え上がった。

どっかん!

爆発は私の手の先から始まって毒霧全体に連鎖的に広がっては空が引き裂けるように叫び始めた。
天地が振動するような爆発が吹きまくった跡。そこには黒く焦げたルガルたちの亡骸の山と疲れて倒れた私の体だけが残っていた。
そして聞こえてきた歓声。

「無謀な奴だな、あんた」

いつの間にか私のそばには体を支えられて立っているパリスがいた。
「あんたが生き残れたのはただ運がよかっただけだから、他の理由なんてない」

私は自分が生き残れた理由を知っているからそれを言おうとしたが、
今にも倒れそうな体だったため、ただそのままじっと聞いているしかなかった。

「しかし」

パリス。冷たかった彼女の顏が、突然笑顔に変わった。

「私が今まで見てきた花火の中でも最高の花火だった。ありがとう。
あんたのおかげで私だけではなくここにいる皆の命が助かった。ありがとう。
私たちの英雄!」

皆の歓声の中、私はパリスを見つめながら微笑んだ。
そして倒れる私を誰かが支えることを感じながら再び気を失った。

第六章 毒王の誕生

ヘンドンマイアの路地裏の広場。
普段は冷たい風音しか聞こえない荒れ果てた場所だが、
あの日以来、私はどこにいても寂しさなどは感じなかった。
現場にいた人々はその物凄い爆発を見て、そこから生き残った私を運が良いと言っていたが、
私はそこでなぜ生き残れたか、頭で分からなくても心の中では分かっていた。
その日聞いたあの声が誰なのか私は未だに説明できない。
もしかしたら毒の精霊が私に話かけたのかもしれないし…または、毒というその存在自体かもしれない。
何であろうが私には関係ない。あの日以来、私はいつでもどこでも一人ではないとのことで羨ましいことは何一つなかった。
狂気に近かった毒に対する執着も消えた。相変わらす毒を使用しているが、以前とは違う気がした。
ただ楽しくて、胸がいっぱいになる。このように感じるのは、世の中で私一人しかいないかもしれない……。

「会えて嬉しい、元気…だった?友よ」

誰だろう?
おそらくその現場にいた人々の中の一人だろう。誰なのかは知らない。
しかし、誰にでも笑顏を見せたかった。最近の私は、ずっとこんな気分だ。

「あ、私も嬉しいよ。そちらも元気だった?」

相手は突然黙り込んだ。
どうしたのだろう?まあ……気にしない。
私はそんな彼を後にして歩き出した。そうすると相手の少し嬉しそうな声が聞こえてきた。

「…聞いたイメージとは違うな。ははっ…とにかく会えて嬉しいよ、毒王
「毒王?」
「あれ?知らなかったのか?
この間君がパリスを助けて以来、皆君のことを毒王と呼んでるよ!
あの物凄かった毒霧にはパリスも賛辞を惜しまなかった。
君のように毒研究に励む奴らも増えてきたし。ははっ、有名人になったな。
おめでとう、毒王!」

男が立ち去ってから私はその場でぼ一っと立ったまま独り言を繰り返した。
毒王…毒王…実に素敵なあだ名ではないか。私にとって、最高の褒め言葉であるだろう。そしてきっと私の旧友も喜んでくれるだろう。
そうだよな?…毒王……。

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