黒い聖女

啓示は、心の崩れ落ちた者に下る
いや、そういう者だけが啓示を授かるのかも…

血の呪いは感染の形で広がって行く。
よって偽装者はたとえ一人であっても危険で、
啓示を授かったプリーストは常に不足している。

啓示を授かった者だけが偽装者を見分けることができるのか?
必ずそうとも限らない。偽装者たちも互いのことを認識することができる。
血の呪いの進行速度は人それぞれ違って、普遍的に男性より女性のほうが遅く現われる。

偽装者に対する極端な恐怖が異端を蔓延させる。
信仰深い少女に偽装者の血液を注入し、それによって偽装者を見分けられるようになる。

啓示が下る。
少女はプリーストとして仰ぎ敬われる。
火刑台の前に立たされるまでは…

オベリス・ローゼンバフは最近の旅程で極端な異端行為に遭遇する。
異端行為を処罰し、見代わりになった少女らを救出する。

偽りの啓示が下った少女らに許されるのは二つの選択肢のみ。
偽装者になるか、
それとも真実の啓示を受け入れるか

啓示は、心の崩れ落ちた者に下る
いや、そういう者だけが啓示を授かるのかも…

後に、この地の創設者と呼ばれるようになる
オベリス・ローゼンバフは優れた能力で彼らを指揮した。
女性のみで構成されたプリースト者団。神聖が込められた声と光の力で
味方と罪のない者たちを守護する守護者たちだ。

彼女たちは本来、黒い教団の支配下にあった犠牲者であった。
ローゼンバフが4代目神官と呼ばれる前、
彼女は一人きり黒い教団の中心勢力との大戦闘を経験する。

黒い教団の誤れた司祭たちには、
この幼い犠牲者の恐怖と苦痛の声が賛美歌のように聞こえているに違いない。
彼女たちは微笑む彼らの前で偽装者の血を被ったまま、
一部は十字架につけられて身を振るわせていた。

オベリスはためらうことなく、彼女たちを救うため身を投じた。
数十にもなる異教徒を倒し少女らを救い出した彼女は、この少女らに新しい生活の基盤を用意する。

以後、レミデーア・カテドラではたびたび美しい歌声が響くようになった。
彼女たちが歌を歌う日には、
賛歌を聴くために足を運んだ都市の人々や巡礼者で教団の建物は埋め尽くされていた。

彼女たちに着せられた黒い血のことを心配する者もいたが、
彼女たちの魂の誤れた血はすでに浄化されている。
洗い流された空の空間に光が一つ二つ満たされていく頃、少
女たちは一人一人、それぞれの啓示を授かり始める。

可憐な少女たちの偽りの啓示が…遂に真実の啓示として生まれ変わったのである。

孤児であった私は、神の存在を信じていませんでした。
神がいるならこんなに不幸なわけがないだろう、
信じられるのは自分自身だけだと、
神というのは自分の無能さを弁解するために作り出された虚像だと思ったのです。

ある日、祭りでもないのに村人たちが浮き立っていました。
大切な人が来たという話を聞いたような…とにかく、
私も嬉しい気持ちになりました。
村人たちが一斉にどこかに集中している時こそが、
盗みで食いつないでいた私にとっての絶好のチャンスだからです。

その日の夜、商店街に忍び込んで人々が浮き立っている隙間を狙い、
ゆっくりと食糧を盗み始めていました。
でも、いつもより油断したいたのでしょうか。
私は警備兵とでくわしてしまいました。

私は警備兵から逃げ、近くの聖堂に身を隠しました。
聖堂はとても静かでした。その時、どこかから歌声が聞こえてきました。

私は歌声に導かれ、歌が聞こえる所へ足を運びました。
そしてそこで…彼女の姿を見ました。

歌を歌っている彼女は純白の服を身につけ、
十字架が飾られた帽子をかぶっていました。
彼女は私を見て微笑んで、近くに来なさいと手招きをしました。
しかし私は、近寄る気が起きませんでした。
彼女の聖なるオーラが私によって汚れてしまいそうだったからです。
私がそのまま立っていると、彼女は笑いながら近づいてきました。

尋ねる。神は何をもって我らを統治するか?
(敬礼姿勢を取って) 信徒を愛で、悔改者を慈悲で統治なさる!

(敬礼姿勢を取って) 信徒を愛で、悔改者を慈悲で統治する!

ならば、今君らが持っているものは何か?慈悲と愛を行う道具か?
(右手で法典を持ち上げて) 鎖で縛った法典である!

ならば、尋ねる。神は何をもって我らを統治する?
(右手で法典を腰に寄せ) 戒名と律法を突き通した、公明正大さで統治なさる!

ならば、今君らが持っているものは何か?神の律法を行う道具か?
(斧を構えて)斧と炎である!

ならば、尋ねる。神は何をもって我らを統治する?
恐怖もまた神の道具、誤れたものを恐怖で統治なさる!

ならば、尋ねる。君らは何を守る？
胸で信念を守り、姿勢で律法を守り、斧と炎で我が神を守る!

ならば、尋ねる。君は何か?
我らは律法の信徒であり判官、邪道を罰する使徒である。
我らは死んで地獄へ行き、そこで邪道を罰する宿命である、
我らは使命はただ一つ、神の志を成就させること。神の炎であり斧！神罰の代行者である!
(合唱が終り、再び姿勢を正す)

- 異端審問所、異端審問官閲兵式 -

"クアアアッ!!"

火刑場、悽絶な悲鳴音が響いている。

重甲冑の上にかぶせられた異端審問所の象徴が
悲鳴音の高低に合わせて歪んでいる。
遠い所から火刑場の様子を伺う人々の目に恐怖が宿っている。

"私たち、ここまで残酷になる必要がありましょうか?"
見習い司祭が審判官を見て声を掛ける。
少し疲労が溜まっているような、いや、すでにうんざりしたような顔だ。
頑固そうな目つきの師匠の隣で、彼の気迷いは一層目立って見える。

"今、教団の行事に疑問を持っているのですか?"
見習い司祭はまともに審判官の目を合わせられず、下を向いてこう話す。

"いいえ、そんな意図で申し上げたわけでは.…。"
"胸を張ってください。信徒たちが見ています。
審判官は常に強直でなければなりません。"

そう聞いて肩を開いてみるが、二人の雰囲気には相変わらずな差がある。
二人の間に悲鳴音で覆われた寂寞が流れる。

長い一瞬の沈黙を破ったのは審判官の問いかけだった。
"審判官の宣誓を覚えていますか？神はわが国を何で統治します?"
"誤れたものを…恐怖で統治なさいます。"
返事を重ねるほど小さくなっていく声。
審判官の顔が険しくなってくる。

"そうです。審判官は神の斧であり炎。私たちは神の恐ろしさを悟らせる使命を持っています。"

一般的に見られる存在ではないが、
彼女たちは大陸の各地でそれぞれの活動を続けてきている。

彼女たちの多くは利他的で誰に対しても笑みを絶やさない明るい性格の持ち主だが、
自分たちの過去を問い詰められることはあまり好まない様子。

理由は不明だが、実は彼女たちの大半はレミディア教団の出身か、
教団にしばらく携わっていたか、
または何か教団と繋がりのある過去を持っていると知られている。

もし彼女たちの正体が気になるのならば、
彼女たちの前で適当に転んだり怪我をしてみるとよい。
きっと彼女たちは基礎的な治癒の神聖力を見せてくれるはずだ。

本題に戻ろう。彼女たちの根がどこであろうと、現在彼女らの根幹を成す要素は'神託'である。

'神託'は教団で言う'啓示'に似たもののように見えるが、
啓示が信者の信仰心を基盤とする概念である一方、
神託はより対象者の特性を重視する傾向がある。

すなわち神託は、神託を受ける対象が如何に無理なく受け入れられるかという資質が重要である。
この神託にどんな資質が求められるのかは主体になる神の趣向によって大きく条件が変わってくる。

彼女たちの神託の主体は'神竜'と呼ばれる存在だが、
残念ながらこの神の正体については未だ明らかになっていない。

この肖像画の巫女は誰か?
美しくてたおやかな巫女様が澄んだ瞳で前を見つめている。

やや細い顔には無駄な肉付きがなく、修行者の顔らしい。

一般的な肖像画はたとえリアルに表現されるとしても、
あちこちに礼儀と尊重の意味で理想化が現われるものと決まっている。
しかしここに巫女の絵は全くそういう要素はなく、
ありのままの姿を表出している。
したがって、
この姿は私たちがたびたび遭遇する平凡な修業巫女の正しい姿であるといえる。

ところが、一点だけ非現実的な部分がある。
神女の後にはっきりと描かれている巨大な青い神竜の姿がそれである。

神竜を現世に呼ぶ儀式はとてつもない法力を必要とし、
気力を大きく消耗する。
優秀な巫女が持っているすべての法力を消耗して神竜を召喚したとしても、
神竜は人間ほどの大きさでその形も確かではない。
すなわち、こんな巨大な神竜を楽な姿で召喚する絵は途方もない理想化である。

遠い昔から伝わる話がある。
当代のスジュは魔物が多く、
日差しが入らず人間が暮らす場所には向いていなかったという。

ちょうど世界を旅し修養中だった巫女がスジュに辿り着き、
巫女は自然とスジュの一番暗い所へ行き、
落ち着いた顔で謎の言語を吟じた。

信実な信仰で自ら人間の罪業を背負ったプリーストは、
人間が救われるよう神に祈り続けていた。
その祈りが神のもとに届いたのだろう、
彼女は'聖痕'と呼ばれるものを授かり、この聖痕には
悪魔を引き出す力と引き出された悪魔を処断する力が付与されていた。

彼女が聖痕を通じて発現する力は
人間が太初に持ったとされる7種の罪悪に似ており、
これに対抗する敵対者はこの力を神の呪いと呼んで避けていた。

彼女が現われる所には人間世界で暗躍した悪魔が本姿を現わす。
そしてこの悪魔たちは彼女の手によって全身を引き裂かれ、
彼らの原点である無底坑に落ちる。

人間はこの一連の過程を'ミストレス現象'と呼んだ。
そして彼女自身も誘惑する者'ミストレス'と呼ばれるようになった。

本来は彼女もレミディアカテドラルによって救われた子供達の中の一人だったという。
一部の子供は黒い教団によって謎の烙印を刻まれており教団内部で熾烈な論争が起きたが、
終局被害者には責任を問えないという結論に至った。

それにより、原罪を現わすというその烙印の正体についても
明かされないまま忘れられてしまったのである。

神よ、彼らを罪から清め
神の御恵みで彼らの罪悪を祓いたまえ

中心の誠実さを神は望んでおられます

遇鈍な彼らの中にあなたの知恵を宿らせ
神よ、我々を清き心と
正しい道へと導きたまえ

我々の救い、我々の神よ
我々の舌は神を褒め称えます
我々の体は主を賛美します
あなたの御名がこの世に満ちるまで

神よ、我々を清き心と
正しい道へと導きたまえ

牛膝草で我々の魂を清め
救いの喜びで彼らを憐れみたまえ

-あるプリーストの祈り-

7大罪悪が一つに合わさった形の'原罪'が可憐な女司祭の身を通じて現世に発現されたという知らせは
罪を持った者たちの身を大きく震わせた。
原罪が発現された姿はまるで悪魔ともいえるものだったが、
その力は罪のない者たちに試されることはなく
多くの人々が罪を持った者たちの審判の日が渡来したと信じた。

愚かな者たちの罪を躊躇わず処断する彼らを敬い恐れる人々は、
彼らのことを、罪を語る者"シンセイヤー"と称している。